青空の中の月

ay

第1話昔から

私が住むマンションは古くもなく新しくもなく、デザインもおしゃれでもなくダサいわけでもない、要するに可も不可もない、そんな感じ。

でもマンションはほぼ満室で空き部屋は私の隣の部屋くらいしかないと思う。

私の部屋は5階建てのマンションの4階に位置していて、一フロアに6つある部屋のうちの306号室。角部屋だ。

部屋は居心地が良くて、仕事の日以外は部屋にいることが多い。

今もお気に入りの映画を見ている最中。恋愛物よりはサスペンスみたいなのが好み。

終盤のほう、探偵が「犯人は、」

と言いかけたとき、間の悪いことにインターホンが鳴った。

誰よ、私が映画見るのを邪魔するのは。

実家からの宅急便とかかな。どちらにしろ手短に話を済ませよう。

そう思いながらドアを開けた。

「こんにちは、305号室に引っ越してきました。白石です…あれ桐華?」

「…健斗!」

何で健斗がこんな所に!気だるそうなしゃべり方もむかつくことに性格悪いくせに顔はいけてるっていう高校生の頃の健斗は健在だった。健斗と私は小さい頃からの幼馴染み。家もお向かいだからよく一緒に遊んでた。私が健斗を避け始める前までは。

「懐かしいね。桐華の部屋上がらせてよ」

「…今汚れてるし映画見てたんだけど」

「別に桐華の部屋が汚いのは昔からだし、映画の趣味は同じなんだからいいじゃん」

何なんだろう、この有無を言わさぬ強引さは。

健斗は、もうあんな事なんて忘れたのかな。

それならそれでいいか。

「じゃあ、入るなら入れば?」

健斗が強引なのは昔から。私が同い年なのに幼馴染みに甘いのも昔から。



玄関を上がった瞬間、色んな部屋をのぞきこもうとした健斗を優しくにらみつけてリビングに案内する。健斗はソファに座るか、低い丸テーブルの下に敷いてあるラグに座るか迷っていたけれど、私が台所でコーヒーを淹れ始めたのを見てラグの方に座った。

「これ、もう一度最初から再生してもいい?」

「あーいいよ」

健斗がリモコンを操作して

私がさっきまで見ていた映画を最初に巻き戻す。面白い映画は何度見ても面白いっていうのは健斗と私の一致した見解だった。

コーヒー(今は春だからアイス)を淹れたマグカップを二つ分丸テーブルの上において、健斗の隣に座る。

「何で引っ越してきたの」

テレビの画面を見たまま尋ねる。

「前のアパートの大家さんがお年寄りで身寄りもいない人だったから死んじゃった後、アパートが取り壊された」

「…。御愁傷様」

「なに、桐華のくせに悪いこと聞いちゃったかなとか思ってんの?らしくないね~」

「は?」

「そうそう桐華はそうでなきゃ!ワガママで気が強くてあまのじゃく笑」

「ふざけないでよ!あんたこそそのむかつくルックスで女の子たちキャーキャー言わせてたくせに裏ではうざいなって言ってたわよね」

「だって俺の理想の女性は…」

「金髪で髪の毛が腰まである明るい人でしょ?ラプンツェルみたいな」

「だからそもそも日本人には興味ありませーん」

「あっそ」

じゃあどうしてあの時。

思わず聞いてしまいそうになった。

あっちだって寝ぼけてたのかもしれないし。忘れようって自分に言い聞かせる。

「懐かしい雰囲気。また遊びに来るよ?」

「…確定条件なのね。まあいいけど」

ここに暖かくて家族のようにゆっくりとした時間が流れているのは確かで、何だか夢のようでもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る