第18話
カイが森を出ていってから数年が経つ。
昔は湖の周りを離れなかったルトだが、戦争の噂をきくため、カイの安否を知るために
ブランに村へ行ってもらったり、
自分で、森の周辺まで出ていくことが増えた。
風のうわさで聞くことには、この戦争もそろそろ終わりを迎えるそうであった。
平民の人間が、人間ならざるような強力な力を持って敵を倒しまくったらしい。
その人間の首には、青の石がかかっているようだ。きっとカイのことだろう。
その話を聞いたときは、安心して、座りこんでしまった。
戦争が終わるということは、カイも帰ってくるだろう。
ルトは、ウキウキしながら、できる限りのオシャレをして、すこしでも可愛くなろうと柄にもなく、髪に花をつけたりしていた。
『はぁ、少し落ち着けよ』
ブランの言葉など聞こえないように、そわそわとしている。
ブランは、少し不安だった。
カイが悪いやつじゃないことはわかっている。10年以上、陰ながら見守っていたのだから。
でも、ルトは忘れているんじゃないか。
カイが人間であることを。
ルトの結界に中に久しぶりに人が入り込んだ。
少し変わっているが、これは確実にカイである。
目一杯おしゃれをしたルトは、カイのもとへいそいそと出かけていった。
カイの横顔は大人びていた。前回見た少年と青年の間のような危うさを含んだ雰囲気はなくなり、成熟しきった大人の顔であった。
ちょっと驚かせてやろう。
ルトはいたずらごころをはたらかせて、カイにそっと忍び寄った。
「わぁ!」
カイの反応はない。振り向くことさえしなかった。ルトは不思議に思った。きっと悲鳴を上げるだろうと思ったのに、ピクリとも反応せず、何かを探すように歩き回っているのだ。
「カイ?
ねぇ、どうしたの?」
ルトが話しかけても返事もしなかった。まるで、なんにも聞こえていないようである。
「カイ?」
やっぱり反応はない。
やがて、歩き回ったカイは、湖のふちに座りこんだ。
「なんで、こんなに探しても、ルトが見つからないんだろ。
ここに来れば、会えると思ったのに。」
「なに言ってるのよ、カイ。
私ならここにいるわ。」
「ルトは、この湖が大切だと言っていたのに。」
「もちろん、大切よ!当たり前じゃない。だから、こうして、ここにいるわ!」
「ルトは帰ってこいって言ってたのに」
「だから、ちゃんと、帰ってくるのをここで待ってたじゃない。」
「なんでどこにもいないんだよ」
「ちゃんといるわ!あなたの隣に!」
二人の会話は、噛み合っているようで噛み合っていなかった。
カイには、ルトの姿は見えておらず、声も聞こえていなかった。
二人の様子はまるで悲劇であった。
求めてやまない人がそばにいない青年と、そばにいるのに気づいてもらえない女性。
二人の顔はどちらも寂しそうであった。
1晩、森に野宿したカイは、日が昇ると、再びルトを探して森を彷徨い歩くのだった。
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