第3話 夕暮れの星屑

次の日は通夜が行われた。通夜から集落中の人々が押し寄せてきた。坊主は呼ばなかった。平太は生前「坊主での経で成仏できるわけがない」と言ってはばからなかったからだった。終始、哀しみがあったが、和やかな通夜でもあった。政秀の友達も何人か来ていた。政秀と恋仲であった一花も来ていた。一花は権三爺さんの2番目の娘の三女であって、政秀とは小さい頃から幼馴染として育ち、いつしか男女を意識するようになって、以来家族親族公認の仲だった。

「政ちゃん、私がささえるけん。政ちゃんにはトキばあちゃんも私の家族もおる。それだけで政ちゃんは大丈夫」

目には涙がたまっていたが、断固としてそう言った一花を政秀は人目はばからずに抱きしめた。

また、政秀には高校からの友達で大学も学部学科も同じであった、亮介という友達がいた。彼も来ていた。彼は高校の初めの頃はいわゆるヤンキーであったが、政秀とは気があった。以来、親友というべき友達となっているのであるが、亮介も泣いていた。平太の横たわっている方向を向いて、独りごちするのに、

「平太爺さん…。あんがとなあ。平太爺さんが俺が家に寄る度に『飯食ってくか、泊まってくか、家に電話してやる』なんて言ってくれて…金髪でワックスバリバリのピアスなんか空けて、イキってた俺も大事にしてもらった…」

政秀はそれをうっかり聞いてしまって、また涙が出てきてしまった。全く、涙というやつは困ったものだと思っていた。


翌日の葬儀も多くの参加者があって、平太は大勢に見送られて、遺灰になった。政秀は両日とも、泣かずにいられなかった。ただ、平太という政秀の心の柱を失って悲しかったし、辛かったのである。

それから、1週間学校を休んだ。政秀は部屋に閉じこもった。トキは政秀の好きにさせてやった。飯だけは運んだ。1週間後政秀はとうとう部屋を出てきた。顔色は大分良くなっていた。一花や亮介、その他友達の励ましのメールや電話があったようで、その甲斐もあったらしく、ご機嫌という訳にはいかないが、前に進むことは出来るようだった。


7月に入って空は白く青くなった。曇天が一切払われて太陽が姿を見せた。カエルではなくセミが鳴き始めた。

トキが、ある日政秀を書斎に呼んだ。政秀はそういえば爺ちゃんの大事な話とはなんだったのかだろうかと、そこで初めて思い出した。政秀は書斎に入った。

トキは座布団に正座してお茶を入れていた。

「よう来たね、政秀。まあ飲みんしゃい」

日曜日の昼過ぎだった。

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