平凡な小話

かさかさたろう

序章

ある田舎町に可哀想な男の子が連れられてきた。名を政秀といい、父は一太といったが50になる年にガンにかかり呆気なく死んだ。

しかし、母親は若かったし、一太は仕事ばかりの高給取りであったから、遺産も沢山あった。なので、読者の皆様はそれがどうして可哀想な男の子なのか判別がつくまい。

ただ、この母親は子どもに関心がなく、金目当てで一太と結婚していたので、一太が死ぬと遺産を根こそぎ持って夜逃げした。しかも住んでいた家も売り払われて、行く場所に困った政秀はある晩、公園にいたところを警察に保護されたのである。

政秀の親戚はなぜか足取りを掴むのが難しくやっとの事で田舎に住んでいる父方の祖父母の元に連れられてきたということだった。

政秀の祖父は平太といい、祖母はトキといった。平太は平凡な男だった。裕福な三兄弟の次男として生まれたのだが、15歳の時に出奔して田舎に移り、何とか跡取りのいない農家の養子のようなものとなり、そこそこ働き、そこそこ遊んで、そこそこ可愛い娘を貰い、政秀の父、一太をもうけたのだった。

連れてこられた小さな痩せた男の子は怯えていた。まるで猫に狙われているネズミのようで、児童施設の係員の陰にじっと隠れて小さなまなこでじっと祖父母を見つめていた。

係員は困った顔をして、平太とトキに聞いた。

「失礼かもしれませんが、もしかしてこの子にお会いしたことがないんですか」

「一太とは随分と昔に縁を切られてしまって…まさか結婚して子供がいるとは知らなかった…それに死んでしまったのか…」

「はあ…そうでしたか…」


平太夫妻は息子の死を嘆き悲しみ、あわれな孫を見つめ途方に暮れていた。

それもそのはずである。十数年前、一太は一方的に縁切りを申し出、消息を絶ったのであったからである。他に子どもがいる訳ではなかった平太とトキは何とか息子の足取りを掴もうとしたが、全く分からず、ただ息子を案じ祈るばかりの日々だったそうだ。

児童施設の係員はこの子をどうすべきか考えていた。すると、トキが息子の大切な遺産で私たちの孫なのだから当然引き取ります、と強く願い出た。


係員は少し考え、了解したが、一応また様子を見に来ると言ってまた去っていった。


これが平凡な物語の序章である。

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