夏の叫び

@nagetobasuhito012

夏の叫び

夏の教室はどこかのガス室を思わせるような肺を犯してあの世へおくる匂いがする。

というのは過度な表現かもしれない。

しかし、それほどにきついのだ、真夏の高校生の制汗剤の匂いは。

人工的に再現された自然を全く感じない甘ったるい苺の匂い、どの石鹸のことを言ってるんだっていうぐらいのよくわからん判断基準の石鹸の匂い、トイレの芳香剤と変わらんだろというような柑橘の匂い。

十人十色をここで発揮しなくていいと思う。

統一してくれればまだどこかの車の消臭剤のCMのように森の中だの、軽井沢のどこかなど答える余裕と理性は保てるだろう。でもここでは森林も一気に枯れ果てる。ありゃ地獄だ。マジで。


キーンコーンカーンコーン


4時間目の授業の開始のチャイムが鳴る、教室に入るのを渋っていたらこんな時間になってしまった。でもなんだかもう少しと自分に言い訳して廊下の壁に背もたれていたかった。

目の前の窓の外にはうるさいくらいの緑と蝉がいきとした姿を見せている。1週間しかない寿命の中で必死に生きているというより「夏サイコー」と言ってるような気がして、満喫しやがってなんてちょっとだけ羨ましいと思ってしまった。そんな中で申し訳程度の風吹いた。風は顔を撫で、壁と背中との間にワイシャツにじっとりと張り付く汗の感覚をより鮮明にさせた。

不思議だと思う。この感覚も夏の風物詩だと思ってしまうほど夏を嫌いになれない。暑いのも汗をかくのも嫌いなのにそれも全部夏の魅力に昇華してしまうのだ。

いや、不思議なんかじゃない。きっとまだ子供みたいに夏に期待してるんだろう。夏は自由をたらふく食える季節だから。


「あの、センセー授業始まってますよ。」


級長の女の子が教室の扉からちょっと身体を出して言う。


「ごめん、今行くよ。」



教室に入るとみんな揃って下敷きをうちわにしてパタパタ仰ぎ、なぜか起動しないエアコンと夏期補習に恨みをもった目をしている。

そして、やはり制汗剤の匂いが立ち込めていた。

あぁ、夏だなぁ。

一刻も早く解放してやらねば。

頑張れ学生。早めに終わらしてやるからそのぶん美味しく自由を食ってくれ。そして俺にも食わしてくれ。俺もスケジュールはびっしりなんだ。

夏期講習の最終日、10分遅れで授業は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏の叫び @nagetobasuhito012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ