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「あぁ~お腹すいちゃったぁ」

 早々と着替え終わった彼女は、ずるるるる、と組織特製ドリンクをストローで一気に吸い上げ、飲み干したのにもかかわらずため息交じりに言った。

「パンケーキ一皿くらいならぺろりと食べれちゃうくらいにはお腹が減ってるぅ」

「えぇ~、無理だよぉ」

 彼女の言うパンケーキ一皿は軽く三人前くらいある、生クリームてんこ盛り、フルーツてんこ盛りのことだ。とてもじゃないが仕事終わりとはいえ、私は食べられない。いくら能力発動後にお腹が減るといってもさすがに無理だ。彼女の胃袋はどうなっているのだろう。

「わかった! ザッハトルテでもいい! フルーツタルトでも! クロカンブッシュでもいいからぁ!」

「こんな時間に食べたら太るよ」

 彼女の場合、一カットでも一ピースでも、シュークリーム一つでもない。うら若き乙女がこんな夜中に食べていいものじゃない。

「太ったら本当にボスから怒られちゃうよ」

「うぅ」

「能力使うのに太ったら大変だろ~! って」

 ボスのモノマネをしながら言うと、似てる! とコロコロ彼女が笑った。

「ふふふ」

 笑いながらふりふりの戦闘服を脱いでハンガーに掛けると、吊るしてあった制服に袖を通す。そこで彼女の笑い声が一瞬途切れた。

 背中に視線を感じる。部屋の中を違和感が通り過ぎた。

「でもこれでもちゃんとカロリーコントロールしてるのよ」

「えぇ~本当かなぁ」

「えっ疑ってる?」

「かなり」

「ひどいわ~!」

 何もなかったように続く会話。でも私は知っている。彼女が私の背中を見ていること。悲しいような、切ないような、今にも泣き出してしまいそうな、そんな瞳で見ていること。

 私の背中、左の肩甲骨にある傷痕。肩甲骨に沿うように大きく走った傷を見て、どうしてそんな表情をするのか私には分からないけれど、聞いてはいけないような気がして一度も訊けたことがない。

 小さな時に怪我をしたのだと彼は言っていた。女の子がこんなに大きな傷を負っていることを可哀相だと思うのだろうか。

 彼女は本当に優しい女の子だ。

 私が私欲のために世界を救うのに、彼女は純粋に世界を救う。彼女は本当に優しい、天使のような女の子なのだ。

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