第2話 百人一首と告白

一学期途中の席替えで、

 なんの所為か隣の席は美月になった

 美月に頼んで、教科書を見せてもらう

 教科書には百人一首の絵札がズラッと並んでいる

「そうだな、私が好きな歌は

 かくとだに えやはいぶきの さしも草

さしも知らじな 燃ゆる思ひを だな。

 藤原実方朝臣が詠んだ恋の歌だ」


恋の歌、

そう聞いただけで少しドキッとしてしまうのは

昨日の告白が消化不良だったせいか将又...。


「意味としては

あなたがこれほど好きだというのに

言えないでいます、言えないからあなたは

私の想いを知らないのでしょうね

丁度、伊吹山のさしも草のように燃えている

この思いを....。

と、男性の片思いを詠んだ歌になるのだが

 男子の中にこれを聞いて

 ドキッとした者は居るのではないかな?

なんてな」

先生の気持ちを見透かしたような発言に、

 顔が一気に熱くなって、

ついついノートで扇いでしまう

 本当に心臓に悪いね、今日の国語の授業は。


ノートを団扇にして扇いでる俺を見て

「ん?どうしたの暑い?」と

 美月は自然に手をおでこに当ててくる

 あー、もぅ!ったく!

 その通りだよと心の中で先生に悪態を付きつつ

 この歌を詠んだ藤原さんに、

なぜか物凄く親近感を持った

「んー、暑いね。大丈夫?

体調悪いなら保健室へ行く?」

自分のおでこにも手を当てて

熱を計ってた手を下ろして

心配な顔をしてくる美月に

「あー、うん、大丈夫 だから気にしないで。」

なんて誤魔化すけれど、

こうやって返すのが精一杯の反応


......やっぱり、

 このままは消化不良だなぁと昨日の反省もしつつ

 覚悟を決めて美月にだけ聞こえる声で話しかける

「あのさ、美月昨日の事なんだけど。」

「うん?」

 ノートをとりながらうなづく美月

「俺、さぁ、お前の事がっ

『キーンコーンカーンコーン』」

「おや、もう時間か。では日直号令」

 言いかけた言葉はまたしても、

学校のチャイムと皆が椅子を引く音に

かき消されていった

「なにか言った?」不思議顔の美月に

「う、うん、何でもない」と返すしか無かった。

 

今日も今日とて、

上手くいかないのはなにかあるんだろうか?

 いつもいつも、絶妙なタイミングで横槍が入るし

 そんなことを頭の片隅で考えながら

 いつもの様にカバンの中の弁当と

 ペットボトルのお茶を片手に持ち屋上へ向かう。


階段は下の階のカフェテリアや

購買へ向かう人達が多くて

 上に行く人なんて、ちらほら見かける程度。

屋上の扉を開けると、

 真上から照りつける太陽の温度が

その度合いを増す

 さすがに、夏の走りにわざわざ屋上を使う

好き者はおらず

 セミの鳴き声と、吹部の曲のワンフレーズが

 繰り返し聞こえてくるのみである。


屋上の塔屋の影に腰を下ろして、

弁当の包を解いていく

「あ、やっぱりここにいた~!

 教室で食べればいいのに、なんでここ来るの?

 ほら、暑いしさぁ?」

扉の開く音がして、美月が不思議そうに聞いてくる

「うん、まぁそうなんだけどね

 あんまり、冷房に長く当たると体調崩すから

 苦肉の策ってやつだな。」

「ふーん、前々から思ってたんだけどさ

 陽斗って、体弱いよね~。

 体格もあまり大きいほうじゃないしさ」


うーん、何だろうズバズバと

色々抉り取られてる感が半端ない

 まぁ、もっとも美月が言ったことが的を得ていて

 反論すらできないんだけどもね。

 

時折吹く風が、屋上に溜まった熱を取り去って行く

「そーいえばさー、もうすぐ夏休みじゃん?

 陽斗はなんか予定とかあるの?」

「んー、予定かぁ~

とりあえず、おばぁちゃん家に行くくらいかな?

 あとは特段決まって無いしなぁ。」

「ふーん、そっかそっかぁ~。

だったらさ!遊園地とか、

花火大会とか行かない?折角の夏休みだよ!

なんにもないと勿体ないじゃん!!」

「まぁ、特段の予定もないし良いけど」

 うん、何だろう物凄い熱量.....

まぁ、確かに家でぼーっとしてるのも勿体ないし

 そんなことを話しつつ、弁当を食べ終わった。


会話の狭間の一瞬の静寂にここが屋上で、

夏真っ盛りという事を

 蝉時雨が聞こえてきて思い出すのであった。

 やっぱり、美月と居るのは楽しい

 この騒々しい大合唱が気にならなくなるのだから

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