喰い改めます。

こばん

第1話 的場 香織

私はその日もお弁当の時間に飛び交う話題に愛想笑いをしていた。

「スターズのりょうくん!かっこよすぎない?」

顔が整ってるもんねー。とだけ返すと加奈子はニヤッと笑って

「かおかおはさぁ、わかってるんだよなぁー!」

と、嬉しそうに雑誌の切り抜きを顔に押し当てる用にして隙間から私を見ていた。

加奈子とはもう幼稚園からの付き合いだ。家も近いしあまり派手なタイプでない私達は俗に言えば親友と言えるかもしれない。いつも、お昼は加奈子と2人で向かい合って教室でお弁当を広げて談笑している。

「かなちゃんは、顔の整った人をきちんと見分けられるよね、雰囲気とかに流されない感じ私は好きだなー。」

お世辞ではない。実際加奈子が好きになるアイドルは顔立ちが均一で鼻が高く、無理に二重にしたりしない自然な美しい顔の人が多い。と、同時に私はそれぐらいでしか彼らに評価する所が見当たらない。

「かおかおも、流されないよねー。2年の先輩に告られたの断ったって⁉︎勿体無いけどー、かおかおみたいな知的な感じとは合わないよねー。」

…あいつか。2年生、野球部の原先輩。坊主頭の印象しかないし顔も思い出せない。

「私はかなちゃんと入れるだけで楽しいから、今は勉強もあるしとりあえず恋愛は今はいいと思うだけだよ。」

その後も話は続き、お弁当の中身が三分の一を超えた頃だった。

「私ねかおかおに秘密にしてたことがあるんだけど…。」

加奈子の顔はまた雑誌の切り抜きの隙間に見え隠れしていた。見当はつく。

「どうしたの?彼氏でもできた?」

「え⁉︎」

セミロングの髪と雑誌の切り抜きの間の大きな瞳が更に開いていく。 そんな気はしてたから別段何も思わずお弁当の風呂敷を締めて、黙ったままの加奈子に何も言わず席を立つ。

「おめでとう。 私からは相談乗るぐらいしかできないけど原先輩と仲良くするんだよ。 私は図書委員だから先に行くね。」

後ろめたさと、何も言えなかった加奈子を置いて私は1組の教室を後にした。加奈子は私に内緒で原先輩に惚れて告白して成功したのだ、大変喜ばしい。

私は…結局のところ異性を見ても、何も感じた事など一度もないから加奈子が原先輩と付き合っていくのは何とも感じない。

ただ、私には一生加奈子なような可愛い真っ赤な顔をする機会や唇を誰かと重ねたりすることはないのかなと不信に思うだけ。加奈子の顔可愛かったな…。

高校生になって眼鏡からコンタクトに変えて校則にギリギリアウトな薄化粧をしだした加奈子は親友の欲目もあり可愛くなった。高校生とは大人になる準備期間なのだとしたら私は勉強以外にすることが思い浮かばなかった。加奈子の真似をするのもなぁと思って美容室に行って

「切って下さい。」

と、雑誌の1番上に飾られた有名なモデルさんを指差した。耳にかかるか、かからないかのショートカット。ロングヘアーからのイメージチェンジに失恋かと聞いてくる野暮な同級生もいたが加奈子は凄い似合うと抱きついてきた。

可愛く目がまん丸の加奈子と、切れ長のボーイッシュな私は1年の中では目立つようになってしまった。

私はただ加奈子のような恋心という物を体験したいだけなのに。胸が育ちが悪いから?いや、身長だけは加奈子を超えた。色々図書委員の権限で恋愛小説や孤独死した老人の小説など空き時間にみても、私には1人でいることに何も疑問はもたなかった。

結果私は「欠陥品」だと認識した。


図書室に着くと今日の当番でないはずの倉田先輩がそこに座っていた。

「こんにちは、先輩。今日は江田先輩の当番ではないんですか?」

顔を私に向けた倉田先輩のサラサラした黒髪に、首筋に少しゾクッとした。そして倉田先輩は少し小首を傾けて口の両端をニッと歪めた。

「江田豆くんね、今日は早退したの。」

枝豆です!と、自己紹介したお調子者の江田先輩なら多分サボリなのだろう。 それにしても倉田先輩は相変わらず人形のような顔つきで、私は少し苦手だ。長い睫毛に、薄めなサラサラの黒髪、手足はスラッと長く白く、唇はCMでみるようなぷるっと三角の唇。 少しタレ目な所がまだ人間ぽさのな残りのようで怖い。

「江田先輩には今度ちゃんと変わって貰いましょう、今日は私痛んでる本のテープ貼り直しちゃいますから。倉田先輩はここで貸し借りの係してて下さい。」

と、いっても昼の図書室は誰もこない。少しでも倉田先輩から離れたくて仕事を分けたのだ。


「的場さんは何が怖いの?」


後ろからかけられた声に身動きができなくなった。 え? 怖がってたのばれたのかな。

「なっ、何のことですか⁉︎私は…」

倉田先輩の手が肩に。

「香織ちゃん?だっけ?1年生では最近、すごーくモテるって聞いたけど、私は嫌い?」

「えっ、嫌いとかモテるとか私には…。」

「香織ちゃん、私はあなたに興味がある。」


「私、女の子にしか興味がないの。」


瞬間、振り返らず肩を、倉田先輩の手を払いのけて全力で走った。 何なんだ⁉︎私のこと興味がある⁉︎先輩が⁉︎

訳もわからず行き場のない気持ちと同じように走り回り、誰もこない理科準備室までたどり着いた。

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