第百六十八話◆四天王の朝

朝の5時半になった辺りで、ちらほらと周りの商店街の人たちが開店の準備を始めたり、魔族の老人が散歩している姿が目につく。

ちなみに魔族の若者の間では散歩するのは恥ずかしいと思う人が多いが、その理由は散歩=老人がすることという風潮があるためだ。魔族以外の種族も散歩はするが、この考えを持っているのは魔族だけらしい。


街の人々は四天王の二人とサミュエルを見るたびに、頭を深々と下げて挨拶をしてくれる。そんな彼らに手を振って応える三人。


「彼ら帝国臣民を守るためにも、私たちもっとしっかりしないとね」少し真剣な眼差しでそういうレディア。


「あたしは毎日が楽しければそれでいいのだ!」サイラはえへへ~といった笑顔のまま歩く。


「あ、着きましたよ!」サミュエルの言葉を合図に魔道士ギルドへ入っていく。



――魔道士ギルド。


「い、いらっしゃいませ!サイラ様、レディア様、サミュエル様!」ギルド内の清掃をしていた男性従業員がバッと頭を下げる。

その言葉に気付いて、他の従業員やギルドに既にいた冒険者が頭を下げる。


「ちょっと魔力見させてもらうね~!」サイラはそう言って魔力検査用のイスへ歩く。それに続く二人。



名前:サイラ・アルゲモア 所属:アグスティナ四天王

職業:魔帝国軍四天王 趣味:一日中ゴロゴロすること

魔力:64040

使用可能魔法属性:水・氷・風・雷・土・光・植物・金属

使用不可魔法属性:火・闇

得意魔法属性:光



名前:サミュエル・ラングドン 所属:アグスティナ四天王

職業:魔帝国軍四天王従者 趣味:魔法の訓練、草むしり

魔力:7922

使用可能魔法属性:火・水・氷・風・雷・土・光・闇・植物・金属

使用不可魔法属性:なし

得意魔法属性:なし



――このようになっていた。

レディアは自分の能力値のカードの趣味の欄を観た瞬間、顔を真っ赤にしてバッと隠した。

そしてレディアとサイラの二人はサミュエルのカードを見ながら、ため息をつく。


「し、使用不可属性が無いのが羨ましいわ……」何故か頬を赤く染めたレディアがボソッと呟く。


「僕はサイラさんの魔力数値が羨ましいですけどね……」サイラの魔力は64040。凄まじい強さであることが分かる。


「あたしは、上級魔導語が分からないから、普通の魔導語に魔力たくさん使って戦うからね~!」サイラはそう言うが、もしも彼女が上級魔導語をマスターしたらとてつもない強さになることは間違いない。


「上級魔導語の勉強すればいいじゃない」真っ当なことを言うレディア。それに対しサイラは「勉強は嫌なの!」の一言で一蹴した。



「…それで、レディアさんの能力値はどうなってるんですか?」


「えっ!?……えっと…それは別に良いじゃない」明らかに動揺して見せようとしないレディア。


「レディア、他の二人のは見ておいて自分のは見せないのはマナー違反だよ?良いから見せるのだ!」そう言ってサイラがヒョイッとレディアの手からカードを奪い取る。


「あっ!!」



名前:レディア・ガラガス 所属:アグスティナ四天王

職業:魔帝国軍四天王 趣味:読書、サミュエルのそばにいること

魔力:6934

使用可能魔法属性:水・氷・風・土・闇・金属

使用不可魔法属性:火・雷・光・植物

得意魔法属性:氷



「「…………」」二人して黙る。それを見て顔を真っ赤にして顔を背けるレディア。


「えっと、何というか…」サミュエルが頭をかく。


「べ、別に良いでしょ!?私はそんなつもり無いんだけど、そう出ちゃったんだから!!」必死に弁解するレディア。


「レディア~、かわいいところあるじゃん~!」ニヤニヤしながらイジるサイラ。


「や、やめてよ!」


「僕は嬉しいですけどね。趣味の欄が本当だったら。残念ながら、そんなつもりは無いみたいですけど……」


「えっ、あっいや……」今度は打って変わって困った様子を見せるレディア。


「こりゃあ、結ばれるのはかなり掛かりそうだねぇ~……」そんな二人の様子を見てサイラは呟く。



一方、皺月の輝きの一行は……


「ふあぁ……朝か…おい、ヨシュア起きろ」隣のベッドで寝ている好矢を起こすロサリオ。


「んぁ…?ロサリオか…おはよう」


「あぁ、おはよう。昨日オルテガから聞いたけど、今日はアンサをエルミリアに会わせるんだろ?」腰掛けていたベッドから立ち上がり、テーブルの上に置いていた自分のカバンを手元に寄せるロサリオ。


「そろそろ準備しないとだけど……沙羅が……」


「そっか、アイツ中々起きないもんな。無理に起こそうとすると物凄い握力で布団の中に篭って丸くなるし」


「そういうこと。ゆっくりしてても実際は問題ないんだよな」


「まぁいいや、俺は適当に散歩でもしてくるわ」そう言うとロサリオはローブを羽織って出て行く。



部屋のドアを開けて宿屋のロビーに向かっている最中、すぐ近くのドアが開いた。


「あら?ロサリオくんおはよう」


「あぁアウロラさん、おはようございます」


「…どこ行くの?」


「散歩ですよ」


「……一人で?」


「はい」


「…………」

それだけ聞くとアウロラは黙ってしまったので、そのままロサリオは宿を出るため歩いて行く。



宿を出てしばらく歩くと、アウロラが後ろから追い掛けてロサリオの横に並んで言った。

「私も一緒に行っていい?」


「別に良いですけど」ロサリオはそれだけ言うとそのまま歩き始める。


なんなんだ?最近アウロラさんの様子がおかしいな……この間は大勢いる前でベタベタくっついてきたし、どういうつもりだろう?

好かれるような事何かしたか……?そんな事をぼ~っと考えながら歩いていると、視線の先にサミュエルたちが見えた。


「…ん?」サミュエルがこちらに顔を向けると目が合った。三人はちょうど魔道士ギルドから出てきたところだったようだ。


「あ…」ロサリオは話したこともないサミュエルに対して言葉が出ない。

すると、サミュエルの方からロサリオに近付いて話し掛けてきた。


「ヨシュア先輩のパーティメンバーの方ですよね?僕はサミュエル・ラングドンです。よろしくお願いします!」頭を下げて言ってきた。

彼の腰に差してある杖…一見どこにでもある杖だが、この世の物とは思えないほどの力を秘めていることが容易に見て取れた。

魔力探知に優れたアウロラも同じ表情をしていることだろう。横にいる彼女の息遣いで何となくそれを感じることが出来た。


「あぁ、えっと……よろしく。俺はロサリオだ」「私はアウロラ・ベレスよ。こちらこそよろしく!」


すると後ろから四天王サイラが歩いてきて、ニヤニヤしながら言った。

「アウロラちゃん、サミュりんイケメンだけど、付き合おうとか考えない方がいいよ~?レディアに殺されちゃうよ~?」


「へっ!?」アウロラは何を言ってるんだ?といった言葉を発したが、サイラの後ろにいたレディアが「ちょっと!やめてってば!!」と言って顔を赤くしていた。

昨日見た時とは随分と雰囲気が違うなぁ……と感じる二人。


「これから僕たちはリーベルさんたちとご飯を食べに行きますが、一緒に来ます?」サミュエルが提案する。


「リーベルって誰だ?」と聞くロサリオに「四天王の一番手の方です。肩書きは無双の剣神です」と返すサミュエル。


「なんて肩書きだ……」


「貴方たちの所にいるオルテガと、私たち二人とリーベル…その四人で四天王なのよ。だから今は三人しかいないけどね」レディアは付け加えて言う。


「なるほど……」


「何はともあれ、しばらくは味方同士になるわけだから、よろしく」そう言ってレディアはロサリオと握手を交わす。


「で、ご飯はどうする~?一緒に行くの?」サイラが聞いてきたので「一緒に行くよ」と伝えておいた。

朝ご飯に関しては各々で済ませる事にしていたので問題にはならないはずだ。


こうして、ロサリオ、アウロラ、レディア、サイラ、サミュエルの五人はエルミリア城の近くにある高級レストランへやってきた。

人間族の街のレストランは朝の時間帯はやっていないことが多いのだが、魔族の街のレストランは基本的に朝からやっているそうだ。


カーテンを全開にして陽の光を部屋の中に招き入れ、明るい朝の雰囲気を醸し出した店内へ通されると、端の丸テーブルの席へ通された。

各々が朝のスープを注文して数分後にリーベルがやって来た。


「すまない、待たせた」涼しい顔でブラックミスリルメイルを見事に着こなしている。

「昨夜はお楽しみでしたね」サイラがニヤニヤしながら茶々を入れた。その直後、ロサリオはリーベルから聞き覚えのあるセリフを耳にした。


「うるさい黙れ」


誰にも殴られていないのに、頭に強い衝撃を受けた気分になるロサリオ。



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