第百五十二話◆あっけない最期
「ひぃ…ひぃ……ここまで来れば追ってはこんじゃろう……」エヴィルチャーは砂浜で大の字になって寝転がった。
「まさかガルトまでもがやられてしまうとは……ワシャどうすればいいんじゃ……」途方に暮れるエヴィルチャー。
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「よし……全員回復出来たな……!」好矢が仲間を見渡して言う。
「何言ってるのよ!貴方は回復出来ていないじゃない!」沙羅が倒れそうになる好矢の身体を支える。
元々魔力が高いガリファリアはドラゴンビームでゾンビを一掃してくれて魔力欠乏状態になっていたし、他のみんなも軒並み魔力が低い状態になっていた。
それに、魔力をほとんど使わなかった沙羅に、原始魔法書を読ませて魔法を使わせてみたが、それに失敗したことで、原始魔法においては使用者の才能というのものが関わってくることを知った。
次に思い付いたのが、再び沙羅にトーミヨの時代に、魔法の初訓練でソフィナを回復させた魔力を回復させる木を作らせてみた。
沙羅は暗黒属性しか使用出来ないが、無属性魔法へアクセスさせてから、植物属性の魔法を使わせたのだ。
確かに微かに回復出来たし、体臭も消臭されたようだが、僅かにしか回復されなかった。消費魔力を大きくしてもただ木が大きくなるだけで、回復量は増えないようだった。
好矢はまず魔力回復ポーションを三本飲み、メルヴィン、ロサリオは一本ずつ、ガリファリアは魔力数値が好矢よりも高いので残りを飲ませた。
ガリファリアは一般魔法が使えない代わりに別の魔法が使えるようだが、その魔法は原始魔法ではなく、別の魔法種別だそうだ。
あえて言うならば、龍神魔法とでも呼ぶべきか?
…口から炎を吐いたり電撃を飛ばしたり出来るようになるそうで、あれは種族特有の能力ではなく魔法らしい。
原始魔法も多少は使えるとのことで“ヒール”くらいなら使えるそうだが、あれは外傷を少しだけ治せる程度で、メルヴィンがゾンビの村人に斬られた時や負傷したダグラスを回復させるほどの回復量はなかった。
よって、好矢が原始魔法書を使って魔法を使用することにした。無論、ダグラスの傷の回復だ。好矢は軽傷しか負わなかったので、その回復だけガリファリアに頼んだ。
コールブランドの切れ味は凄まじかったらしく、ダグラスの傷はかなり深かった。
メルヴィンを回復させた魔法で回復させることは出来たものの、凄まじく魔力を消費することとなった。
魔力回復ポーションの三本分の回復量を明らかに超えた消費魔力だったが、大切な仲間を失うわけにはいかないし、何よりダグラスはミョルニルを使用した
「ヨシュアよ、妾の背中に乗るがよい。変身には魔力は使わないからな」ガリファリアはそう言って、ドラゴンに変身した。
「すまんが、頼む…」好矢は沙羅に付き添われガリファリアに乗り、沙羅はそのままドラゴンから飛び降りた。
ドラゴンとはいえ小型な為、飛び降りる事に関しては問題ない。
「もうどこへ行ったか分からないわね……」アウロラがそう言ったが、好矢たちが来た道は戦闘中アウロラとロサリオがいたので、エヴィルチャーが逃げられるとしたら目の前の道……
道は一本なので、そこへ進むしかなかった。
もしかしたらもう、サイエルやテレンスは無事ではないのかもしれない……しかし、エヴィルチャーがいる限り、ゾンビが減ることは無い。
それを考えると、とにかく追い詰めて倒すしかなかった。
そうして好矢たちは砂浜の方まで走ってきた。泳いで逃げるとは到底思えないが……そう考えていると、視界の端に人影があった。
……エヴィルチャーだ!!
「追い詰め――!」好矢が言い掛けた所で……
ゴゴゴゴゴ…………
突然、地面が揺れだした。
「な、なんじゃ!?」エヴィルチャーも、その異変に気が付いた。その瞬間……ザッパアァァァ!!と、とんでもなく大きな音を立てながら、海から巨大な魔物が姿を現した!
「ば…バハムート……!?」エヴィルチャーは驚愕する!
バハムートはそのままエヴィルチャー目掛けて突撃した!
「えっ……!ぎゃあぁぁぁぁぁぁーッ!!」自身を狙われていると把握したエヴィルチャーは必死に砂浜を駆けて逃げる。
…ドシンッ!
エヴィルチャーは足を絡ませて転んでしまった!
過呼吸のような状態になりながらも、エヴィルチャーは仰向けになりバハムートに向き直る。
「い…嫌じゃ…死にたくない……!死にたくない……!!」再び逃げようと手足をバタつかせるが、そこは砂浜。思うように逃げられない。
バハムートは無慈悲な眼差しをエヴィルチャーに向けたまま、大きく口を開いた!
「わ…ワシの野望が……!!くっ………!は…発動…!」エヴィルチャーは最期の力を振り絞って、暗黒属性魔法をバハムートに発動する!
「!!」アウロラはハッとした。元々魔力の動きを見ることに優れた彼女。エヴィルチャーの発動した暗黒魔法の使用魔力が解ったのだ。
巨大なブラックホールのようなものがエヴィルチャーの頭上に現れ、それは空気中のマナというマナを集め、物凄い勢いで大きさを増していく。
かなりのサイズになったブラックホールはそのままゆっくりとバハムートの口の中へ移動し……爆発した!!
ドオォォォォォン!!という轟音と共に地響きが起こり、大気を揺らす!その地響きは、バハムートが現れた時よりもずっと強い揺れだった。
「クッ…!何て威力だあのジジイ……!!」火力に特化した強さを誇るロサリオでさえ、驚愕する威力だった。
「ギャアオォォォォォォ!!」バハムートはあまりの威力にのたうち周り、ガンガンと地面を揺らした!
「ひゃ…ひゃひゃっ……!わ…ワシの方がバハムートよりも上なのじゃ……!!」エヴィルチャーがそう言った瞬間、バハムートの眼光は光り、しっかりとエヴィルチャーを捉えた。
無表情なそのバハムートの顔は、少し憤怒の表情にも見えた。
再びバハムートは口を大きく開いた!
「えっ……!ダメージを受けていない…じゃと……!」改めて恐ろしい強さのバハムートに驚愕するエヴィルチャー。
「い、嫌じゃ……た…助けて!嫌じゃ!嫌じゃあぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
…バクン!という音と共に、エヴィルチャーはバハムートに飲み込まれてしまった。
「なッ……!?」ロサリオも言葉にならず、ただただ呆然としていた。
アウロラも驚いているようだったが、その驚きはエヴィルチャーを飲み込んだことではなかった。
「バハムートに……ほとんど魔法が効いていない……?」
「恐らく、高い魔力を使用したとはいえ闇属性や暗黒属性にはある程度の耐性があるんだろうよ……光属性が弱点なんだ。それくらいはあるだろ」オルテガはそう言う。
「あのエヴィルチャーの魔法……使用魔力10000は超えていたわ……!」アウロラが恐怖からか、震える。あんなのに勝てるわけがない……そう思ったのだろう。
「……大丈夫だ」アウロラを後ろから抱きしめた。
「アウロラ、俺たちは好矢に付いていくって決めた。俺たちでこの大陸を救うんだ……世界を救う為に…まずはここを……」アウロラを抱きしめてそう言ったのはロサリオだった。
「その通りだ、ロサリオ。アウロラ…お前の魔法支援も役立つ。是非力を貸してくれ。そしてロサリオ。お前の魔法の火力は頼りにしてる……頼むぞ!」
「当然だぜ!」
「……もう後戻りは出来ねぇ!とにかく、このままバハムートと戦うしかねぇな……!テメェら!空は飛べるな?」ダグラスは言った。
「みんな!詠唱文は、“浮上する身体……自由に空を飛翔出来る風の翼……無限詠唱待ち状態を常時保持……魔力1200使用”そして、“発動”だ!」好矢は皆にそれを告げると、残り少ない魔力で空を飛ぶ。
「……みんな!やるぞ!!」
バハムートは振り返り、好矢たちに対峙する。
好矢たちもそれぞれ武器を抜き、戦闘態勢へ移行した。
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