第百十六話◆一時の休息
好矢は両手で頬をパチンと叩いて、洞穴へ投げた携帯松明を拾う。
その松明の火を眺めると、メルヴィンの方へ振り返って、自分の思い通りに念じて動かせる火球を作ってくれるよう頼んで松明を消した。
「解りました。…………発動!」全員の頭上に火球が出現し、各々はその火球を自由に動かせることを確認した。
沙羅は好矢の隣へ並び、好矢と自分の少し前に火球を移動させて程良く前を見えるようにしてくれた。
彼女のその行動に気付いた好矢は、自分の火球を少し遠くまで飛ばして、洞穴の様子を探る……
……どうやら、奥に続いているようだった。
「おいヨシュア。洞窟続いてるみたいだけど、どうすんだ?一旦二手に分かれるか?」ロサリオが聞いてくる。
「いや、さっきの戦いで感じただろう?二手に分かれるのは危険だ。まずはこの洞穴の奥へ進むことを考えてみよう」
「分かった」ロサリオはそう言うと自分はダグラスを前に歩かせて後列に回って付いて行く。
ダグラスもこの行動自体は何ら不服ではなく、それぞれの得意分野に則った隊列配置へ着いただけなので、当然のように前へ出た。
好矢、沙羅、ダグラスが前列、メルヴィンが中列、アウロラとロサリオが後列だ。ちなみに後方警戒の為にガリファリアが後列の更に後ろへ着いてくれている。
好矢は剣も魔法も扱えるので、その場の戦闘状況に合わせて臨機応変に中列に加わって戦うことにした。
「よし、じゃあガリファリアは後方注意をしつつ後列と一定距離を保って付いて来てくれ。他は前に集中して構わない。後ろからの奇襲があればガリファリアの指示に従うこと」
「あぁ」「分かった」後列にいるロサリオとアウロラがしっかりと返事をしたので、好矢はそのまま先陣を切って歩いて行く。
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しばらく歩くと、また先程のようにぐちゃぐちゃと音が聞こえてきた。……触手の魔物だ!
「あれは…ゲイザーね!」先程触手の魔物との戦いに参加していなかった沙羅が魔物の名前を言ってくれた。
「ゲイザー……?あの気持ち悪い魔物の名前か?」そう聞くと、そうだと返してきた。ゲイザーは前方に四匹いた。
「先程の戦闘から、弱点が目玉で、雷属性に耐性が薄いことが分かっている!みんな魔法攻撃をメインで仕掛けるんだ!」好矢の言葉にそれぞれは武器を構え直して戦闘態勢をとった。
(……電撃放射……範囲指定…前方のゲイザー四体へ……魔力160使用)「魔法伝導210!発動!」好矢は雷属性の範囲攻撃をゲイザーに仕掛けた!
バリバリバリという激しい雷撃音を響かせながら、ミスディバスタードの剣先から電撃がゲイザーを襲う。
そこへ、コールブランドを構えながらゲイザーへ突進していく沙羅。
「そこぉっ!」グサリとゲイザーの目玉の中心を突き刺し、そのまま薙ぎ払いの要領で横へ斬り裂く!
その斬撃は、切り裂いた先にいる他のゲイザーも巻き込み、そのゲイザーの目玉も真っ二つにして、四匹のうち二匹を仕留めた!
残ったゲイザーはその状況を見て少し焦ったように触手をバタつかせたが、好矢はすぐに電撃魔法に魔力を追加使用してゲイザーの動きを抑えつけた。
そこへメルヴィンとロサリオはそれぞれ弓矢と氷の槍で残りのゲイザーを倒した。
「…よし、倒したぞ!」ロサリオが言ったのと同時に後ろから声が聞こえてきた。
「気を抜くな!後ろから魔物が攻めてきた!数は三匹!」ガリファリアの声だった。
後ろへ振り返ると、コウモリ型の小型の魔物で、チョロチョロ飛び回っているので、ガリファリアの篭手の攻撃が全く当たる気配がない。
「オラァッ!!」コウモリの魔物の前へ飛び出してハンマーを振り回すダグラス。
ガンッ!という重い音が三匹のうち一匹から発したのと同時に、その魔物はバラバラになり壁へ激突した。
ギイィィィィ!!と鳴きながらダグラスへ突っ込んでくる二匹。後ろにいたメルヴィンがすぐに矢を射るが、躱される!
ガリファリアはそのままの位置からブレス攻撃を仕掛けた!
コウモリの魔物二匹が黒焦げになるまで火炎ブレス攻撃を続けた。
ボトボトッとコウモリは地に落ち、退治に成功した。これで連戦連勝となった。…とはいえ、魔物と戦う上で連勝は当たり前。勝てなければ死ぬのだ。
「……負傷したメンバーはポーションで回復しながら付いて来い」好矢はそう告げて進み出す。
洞窟を抜け、暫く山道を進み登っていく……あれから約半日戦い続けている。最初こそ簡単に倒せていたのだが、物凄い頻度で複数体の魔物がドンドン襲い掛かってくる。
これはいくら強くても、疲労が蓄積し数の暴力にやられてしまう……。
アーギラ黒山へ登ったハンターが誰一人として帰ってこなかったという話は納得できるものだった。しかし、死ぬわけにはいかない。
「暗くなってきたし、消耗も激しい…これ以上の戦闘は危険だ。とりあえずそこの茂みに隠れて休もう」好矢が茂みを指差して提案する。
「そうだな……さすがに疲れたぜ……」ロサリオが言って、みんなそこの茂みへと隠れた。
保存食を食べ、見張りを置いて30分置きに交代しながら周囲を警戒する。
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皆は十分な休息が取れた頃には、辺りは明るくなっていた。
「……お、起きたか」好矢が目を覚ますと、ダグラスが声を掛けて来た。今はダグラスが見張りをしてくれていたのか。
「おはよう、ダグラス。結構明るくなったな……魔物は大丈夫だったか?」
「おう。夜が更けていくにつれて茂みの外にいる魔物の数も減ってきた。奴らも人種族と同じく夜は寝るのだろう」
「なるほど……」
本来、魔物というのは夜の間に活動する、いわゆる夜行性が多いのだが、それは人種族を捕食するために夜行動する事で消耗している所を襲えるのだ。
しかし、アーギラ黒山などという危険な所へわざわざ夜中に登る人種族はまずいないので、主に朝から夕方に掛けて行動し、夜になったら寝る……という行動に出ていたのだ。
結果的に、それのお陰で助かった一行だった。
しばらく経つと、皆が起きたので朝食として保存食を食べて水分を補給し、再び出発することにした。
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