第九十八話◆時は経ち……
バサァッ!と音をたてて、厚手の黒色のローブを羽織るサミュエル。黒色に金色のラインが入っているカッコイイローブだ。
胸の☆の数は五つ。トーミヨ最高学年である五学年の証だ。
右手には、四学年の頃に入手した覇杖・明鏡止水を装備し、左手には純度100%のミスリル製の腕輪を装備していた。
今の僕はトーミヨ中で最強の魔導士として有名で、シルビオ学長からは「トール・ヨシュアの再来」とも言われている。
当時のヨシュア先輩よりはずっと強いことを確信していたが、それでも再来と言われるということは、やはりトーミヨを退学した彼が残した物は大きかった。
魔力の数値よりも大切なこと……それが上級魔導語である。これを僕に教えてくれたヨシュア先輩。今も僕なんかよりずっと強い存在だろう。
新聞を読んでみると、皺月の輝きの活躍が書かれている事もある。
邪悪なる者を止めるためにも、僕はアグスティナ魔帝国へ就職して帝国の動きを牽制する役目を負いたかった。
それと同時に、あの時からずっと助けてくれたレディアさんにも恩返しがしたい。
「行ってきます!」今日はそのアグスティナ魔帝国へ入軍試験へ行く日だ。
「「行ってらっしゃい!」」家族達は見送る。
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――アグスティナ魔帝国・エルミリア城内。
「国立魔導学校トーミヨから参りました。サミュエル・ラングドンです。」サミュエルが名乗ると、面接官の上級魔族の男性は「そこへ座れ。」と指示した。
そこへ浅く腰を掛けるサミュエル。
「まず話を聞く前に……」面接官はそう言いながらサミュエルを指を指した。
「?……何でしょうか?」サミュエルが言葉を言い終えるのと同時に、バシュンッ!という音を立てて、指先サイズの火の粉がサミュエルに向かって飛んできた!
サミュエルは反応して跳ね返そうと思ったが、敢えて動かなかった。
サミュエルの横を通り過ぎて消滅する火の粉。面接官の男性はニヤリと笑って続ける。
「今のはどうしたのかね?もしかして反応が出来なかったのかね?」
「反応をするまでもないと思いました。」理路整然と返答する。
「何……?」シルビオ学長のように額がピキッとなる面接官の男性。
「……最初から僕を狙っていないことが解っていました。」
「なるほど……。レディア様の言う通り貴様は中々の人材だ。」
「ありがとうございます。」
「ところで……キミの得意属性の欄に記入漏れがある……キミの得意属性は何だね?もし入軍となった場合、配属先を決める判断材料がほしいのだよ。」
「僕の得意属性はありません。……得意魔法は原始魔法です……履歴書の下の備考欄に記入したかと思います。」
「おっと……かなりレアな人間だね……。希望通りになるかは分からんが…希望の配属先はあるかね?」本来は城の中にある魔法軍や薬学棟など色んな配属先を答えるものなのだが……
「アグスティナ四天王です。それが無理なら、四番手のレディアさんの側近でお願いします。」と答えた。
「なッ……!?」絶句して固まった面接官。すぐに動き出して咳払いをして続けた。「――それは、聞き届けられないだろうが……一応レディア様に打診してみよう。」
「よろしくお願いします。」
「では、これで入軍面接を終了する。次は魔法の実技試験だ……。使用不能属性は無いと書いてあったが、本当に無しで良いかね?」面接官に聞かれる。
「はい、問題ありません。」
「では、この番号札を持って、実技試験会場へ向かいなさい。……お疲れ様。」面接官から番号札を受け取り、その場を去った。
――実技試験会場。
「……では第一班が集まったので説明を始める。」今度はキリッとした表情の女性が面接官だ。
「…あっちに黒い丸い板が置いてあるのが見えるだろう。アレに魔法を撃ってもらう。魔法は一般魔法と原始魔法両方を見せてもらう。原始魔法を使えない場合は、番号札をこっちの面接官に渡して――」
面接官の説明が続く。僕はどちらも使えるので、とにかく魔力配分にだけは気を付けて魔法を放つことにした。
「では、一番から!前へ出ろ!」面接官に促され、前へ出たのはトーミヨの次に優れていると言われている魔導学校出身の学生だ。
「1番、ビリー・レウディス!いきます!!」火・植物属性以外の全ての魔法を放つ。原始魔法は使えないようで、番号札を別の面接官に渡していた。
全体的に見ると、魔力の水準は高くはないが、低くもない。大体の予想魔力は高くても魔力900~1100前後までの人間がほとんどだろう。
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「…次!」面接官の言葉にサミュエルは前へ出る。
「96番、サミュエル・ラングドンです。お願いします。」そう言ってサミュエルは、原始魔法が使える場合に渡す方の面接官へ、番号札を渡す。
それだけで周囲はザワついた。
原始魔法を扱えると言って面接官へ渡した人間は100人中、サミュエルを含め4人だけだったのだ。
「では、一般魔法から魔法を使え。属性の順番は問わない。……始め!」面接官がそう言ったので、魔法を放った。
もちろん、覇杖・明鏡止水の魔法伝導は使っていない。……というより、しっかりと数値が計れない為、使用禁止なので手に持っているだけだ。
……………………
「ほう……。コホン…よし、良いぞ。……次!」一瞬、目を丸くしていた女性の面接官だが、すぐに自分の役目を思い出して、次の学生を呼んだ。
「……サミュエル、目立てたわね。」エルミリア城の四天王用の自室の窓から、レディアが学生たちを見下ろす。
もちろん、目線の中心にいるのはサミュエル・ラングドンだ。
「……早くここまで来なさい。アンタは四天王の素質がある。」
第四章★サミュエルの戦い編 完
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