第九十話◆レディアの疑問

――サミュエルの家―夜。


七人で食卓を囲んでいる。言ってなかったが、僕は四人兄弟の一番上の長男なのだ。

父親、母親に、妹、もう一人妹、そして一番下が弟だ。食卓を囲んでいるもう一人はレディアさんだ。


レディアさんがエレンの街にいる間、僕達ラングドン家にかなり高額なお金を入れてくれているので、生活には余裕が出てきた。

そう言った意味で、妹たちや弟に美味しいご飯を腹いっぱい食べさせてあげられるので、レディアさんの気が済むまで街の案内をすることにした。


父親が言った。

「こうして美味しいご飯を食べられるのもみんな、レディア様のお陰です。本当にありがとうございます……。」


「お姉ちゃん、ありがとう!」弟が近くの遊び場から摘んできた小さな花をレディアに差し出した。

どういう反応するのか?と少し心配しながら見ていると……


「ありがたくもらうよ坊主。」レディアはそう言って弟の頭を撫でていた。

当然という見方もありながらも、内心ホッとするサミュエル。



夕食を終えて、僕が部屋で勉強していると、レディアさんが部屋に入ってくる。


「……勉強はどう?」淡白に聞いてきた。


「順調ですよ。来期も学年トップが狙えそうです。」


「そうか……」レディアさんはそう言いながら、僕の布団に座った。

ちょうど勉強が一段落ついたので、大きく伸びをしてレディアさんに気になっていた話をすることにした。


「レディアさん。」


「……」無言で僕に顔を向けるレディア。


「どうして、僕達に良くしてくれるんですか?最初は命まで狙っていたはずなのに。」


「……最初は気分。」そう言って、しばらく考え込み始めた。


「…………」僕は次の言葉を待っていた。すると……


「エルミリア様が人間たちを殲滅しろってよく言うのね。戦争になると。」レディアさんは再び話し始めた。

「どうしてそういう事をするんだろう?って考えた事があるの。それで、エルミリア様のお考えは何なんですか?って聞いてみたことがあるんだけど……邪悪なる人間を滅ぼしているだけだ……って言うわけよ。」


アグスティナ魔帝国側の人の話を聞くとおかしいことが分かる。

僕達人間は何もしていないのに、攻撃をされたりすることがある。それを何故邪悪だと言われるのか?


「その理由だけど……エルミリア様は幼少期に人間がこの世界を統治していた時代を見ているの。それが許せないそうでね……。例えば、ただの一兵卒なのに、エルミリア様の元へ毎日通って、いつも絵本を読んでくれていた兵士がいたらしいの。その兵士も人間族に殺された。」レディアは言う。


おそらくこの話は、サラ・キャリヤーの伝説が終わった後の話だろう。


「でもそれは……」サミュエルが言い掛けたが…


「もちろん戦争だったからなのは分かってる!でも、お前は両親や妹や弟たちが殺されて、戦争だったから仕方ないって納得出来るか?」


「それは…出来ませんが……」


「だから人間たちに復讐する……そのために人間を味方に付けて世界を統治する……って言ってたの。言ってることは矛盾してるように聞こえるけど、自分に従う人間だけは、生かせてあげようって考えてるみたい。」


「そんな理屈、僕は認めません。もちろん、過去の人間の行いも間違っていますけど、種族が違っても仲良く出来るはずです。」サミュエルはそう言う。


「それよ。」レディアは言った。


「えっ?」


「お前はその考え方を世界中に広げようとしているんでしょう?」サミュエルは驚いた。以前書いた「他種族間の平和」をテーマにした論文のことを言っているのだと気付いたからだ。


「どうしてその論文のことを……?」


「ウチにはこういう学生がいますって、シルビオは定期的に論文や模擬戦の成績をアグスティナ魔帝国に送っているの。その時にお前の論文を読んだ。」


知らなかった。勝手にアグスティナ魔帝国に重要な情報を送っているとは……。


「最初は、エルミリア様がお前の論文のテーマを見た瞬間笑い飛ばしてぐしゃぐしゃにして投げ捨てたのよ。……それを拾って何だろう?って読んでみたのが始まり。それが、お前たち人間族を知りたいと思った切っ掛け。」


「それで……短い間ですが、ここまででどう思いました?」サミュエルは聞いてみる。


「まだ解らないけど……すごく良い人たちだと思う。」人間は良い人たちだと言う言葉を聞いて、サミュエルは少しレディアを信用しようと思った。


「……実は、僕のこの考えは、トール・ヨシュアという方の考え方から来ているんです。」


「トール・ヨシュア?あぁ……あの子ね。」


「先輩に会ったことがあるんですか?」サミュエルは驚く。


「私は無いわ。今から一年ちょっと前、私達四天王の三番手のオルテガが言ってたの。トール・ヨシュアという者と戦ったが中々の腕だった……って。」


「そうなんですか……」


「それも、人間を知りたいと少し考えるようになった要因の一つかも。オルテガが、人間は本当に悪い連中なのか?と疑問に思っていたみたいだから。」


「人間族と上級魔族が手を取り合える世界が来たらいいな……って僕はそう思っています。もちろん、その他の種族とも……」サミュエルが自分の理想を話すと……


「今はそれは無理ね。……悪しき者を倒して、エルミリア様のお考えを改めて頂けないと……」レディアはそう言った。



しばらく沈黙が流れた。

チラッと時計を見ると、時刻は深夜の二時半を過ぎていた。

「あ、すみません。そろそろ寝ないと……先輩たちの旅支度を手伝わないといけないので。」


「ソフィナ・ヨエルたちか……私も手伝おう。」


「え……それはマズイんじゃ……」サミュエルはもの凄く心配になる。


「私がまず話をしてみる。それまではお前が身を挺して護ってくれれば話を聞いてくれるだろう。」レディアはそう言った。

嫌っていたはずの人間族に身を挺して護ってくれと言ったのだ。

それは、魔法を撃たれた場合命に関わる問題なので、冗談半分では絶対に言えない言葉だった。それを僕に言ってくれた。

僕はもし、先輩が攻撃をしても、レディアさんが話を終えるまで、本当に護ろうと誓った。




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