第八十七話◆サミュエルの真価

レディアを纏っていた黒いオーラが徐々に分離してゆき、常時漆黒の部分鎧と剣に纏う形になった。


「うふふふふ……ありがとう、ボウヤたち……。」そう言い終えると眼を開けて、ガブリエルへ剣先を向けた。


「私は氷魔法を得意とする剣士……さっきの魔法は、食らったダメージの合計分、自分の魔法防御、鎧の防御能力、武器の威力を増加させる魔法なの。すごいでしょう?」

不敵な笑みを浮かべているレディア。そんな魔法は聞いたことが無いが、こんな状況でハッタリを言うとは思えなかった。


「じゃ、行かせてもらうわ!……ハッ!!」レディアは気合を込めた発声をする。……すると……

……ザシュッ!!


「ぐあぁぁぁッ……!!」物理的に剣先から2mほど離れていたガブリエルの左肩を貫いたのだ。

一同は、一瞬何が起こったのか理解が出来なかった。


「凄いわ、この魔法武器……強いわねぇ~……。」レディアは自分の武器を見て感心している。


解放リーベラティオーッ!!」不意に、ガブリエルやソフィナたちが自身の身を按じ始めた当たりで、サミュエルが何かの魔法を発動させた!


………………しかし、周りに何の変化も起きていない。


「キミ、三学年になるサミュエルくんよね?私、そういうハッタリが大嫌いなの。分かる?」レディアは剣を構える。


「ハッタリだと思いますか?」サミュエルはそう言って、指をパチンと鳴らした!


………………指を鳴らした直後も、特に周囲に影響がないように見えた。


「それをハッタリって言うんだよ!!」レディアはサミュエルに斬り掛かろうとした!

……が、レディアはその場で立ち止まっている。


「なに……これ………身体が動かない……!!」


「…見ての通り、僕が魔法で押さえつけます!皆さんは今のうちに攻撃を!!」サミュエルはソフィナたちに言った。



「ぐふっ……!!」血祭りという言葉が似合う傷を負ったレディア。

防御能力がかなり向上しているとはいえ、サミュエルが発動させた謎の魔法で身動きが完全に取れない以上、何も出来なかったのだ。

たまに魔法で反撃をしてきたが、アデラの氷魔法の魔法防護障壁により、そのダメージも受けることがなくなり、比較的安全にダメージを与えることが出来た。


「レディアだったな……これで終わりだッ!!」ガブリエルはそう言いながら大剣を振り下ろした!

ダァァンッ!!という音を立てて、石の床に大剣が叩きつけられた。


……レディアの姿が無い。


しばらくすると、ガブリエルたちの間から冷気がすぅっと通り抜けていく感覚に襲われた。レディアは逃げたのだ。


「よ、よかっ……た……」サミュエルはそう言って、倒れた。


一同はしばらくボーッとしていたが、すぐに気を取り戻してサミュエルの元へ駆け寄った。

「サミュエル!おい!サミュエル!大丈夫かッ!!」レオがサミュエルを抱え起こし、声を掛ける。


「いけない!魔力欠乏状態だ!!」ソフィナがそう言うと、自分のカバンから魔力回復ポーションを取り出し、サミュエルに飲ませた。

好矢が作ったものではなく、お店で買える一般的な回復量のポーションだ。


「ゲホッ…!ゲホッ!!」サミュエルは咳をしながら、意識を取り戻した。


「ありがとうございます……。に、逃げたんですね……レディアってやつ……。」サミュエルはレオにそう言う。


「お前……何なんだ?あの魔法……。」レオはそう言った。


「黙っていてすみません。僕の得意属性……無いって話だったじゃないですか。」サミュエルは話し始める。

「つい最近、僕の得意魔法が分かったんです。」


「得意魔法……?得意属性だろ?」ガブリエルはそう言う。


「いえ……僕は一般的な魔法属性は全て平均以下にしか使えません……魔力はもうかなり高いのに、何故か皆よりも弱いんです……でも……」

少し言いかけて言うのをやめたサミュエル。しかし、その後何かを決心したようにまた話し始めた。


「僕の得意魔法……原始魔法なんです。」


………………しばらくの沈黙が流れる。


「「「えっっ!?」」」六人は驚く。


「エリシア先輩……勝手に魔力使っちゃってすみません。」サミュエルはそう言う。


「そうだ、エリシア!何で皆が戦っているのにお前だけ何もしなかった!」レオが怒鳴った。


「待ってよ!私、魔法が使えなかったの!!どうしてか分からないけど……力がどんどん抜けていっちゃって……」


「僕が、エリシア先輩の魔力を吸い上げて、あのレディアって奴の身動きを封じる魔法の材料にしたんです。……僕の魔力だけでは完成しない魔法だったので……。」

サミュエルはそう言った。


知らない内に、サミュエルはかなり強い魔導士へと変貌していたのだ。


「お前さ……さっき、魔力がかなり高いって言ってたけど、具体的な数字分かるか?」ガブリエルが聞いた。


「昨日調べた段階では……1922でした。」サミュエルは言った。


「「「!!??」」」六人全員が凍りついた。

四学年に上る直前で魔力1922など聞いたこともない。……魔力が92の落ちこぼれだった彼はどこへ行ったのだろうか?


「原始魔法をメインで扱うようになってから、今まで高まらなかった魔力が爆発的に上がっているんです……。」サミュエルは恥ずかしそうに言う。


「この事…シルビオは……」


「たぶん、知らないと思います。……学内中、僕はちゃんとした魔法を使えないから原始魔法に頼っている……っていう学生で通っているので」

かえってその方がすごいと思うが、“通っている”ということはある程度有名であるということにもなる。それはあまりにも異様なものだった。


意外にも、最弱魔導士サミュエルが、最強の代名詞、大魔導士に一番近い存在だったのだ。




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