第七十三話◆邪悪なる者

二週間前――。



「ふあぁぁ……」起きてすぐ、大きなアクビをする私……

これから準備をすれば普通に学校に間に合う時間に起きた。やはり冬の季節はベッドから出るのがつらい…ずっと寝ていたいけど、学校へ行かないといけない。

三日後はトーミヨ四学年の課外授業がある……。ハンターになるための課外授業で、魔法学科は必ず行かなければならないものだ。


強制参加の修学旅行のようなものと考えればいいだろうか。

もちろん、たった今起きたアデラには好矢や沙羅の世界の修学旅行というものの存在は知らないのでそういった例えはないが、


課外授業は、数日間学校を離れて別の地域で依頼を三つこなして帰ってくるというものがある。

一昨日私が指示されたのは、ベルグリット村にある冒険者ギルドでトーミヨの学生向けの依頼を受けて、それを遂行することだった。


ベルグリット村は龍の渓谷の入口にある村で、そこにはエルフ族が多く住んでいると聞いた。

元々エルフ族は人間族と友好的なので、種族間の問題はないが、馬車で移動しても二週間以上の場所へ行かされることになるとは何とも不運だ。

トーミヨの課外授業は二人一組で組むことで決まっており、学生はそれぞれ指定された場所へ行くこととなる。


例えば、巨人族の街へ向かうのがソフィナとエリシアだ。私は、レオと一緒にエルフ領のベルグリット村へ行くのだ。

そういえば行き先が決まり、班の発表をされた昨日は、学校一のイケメンであるレオと出掛けることになり、ガブリエルが心配してたっけ……。

私はレオとどうこうなろうって気はないが、男と二人で出掛けるものだし、心配になるのだろう。

私だって、ガブリエルと一緒に魔族領へ向かうファティマが気になって仕方ないし、お互いどうこう言える立場ではないが。


「いってきまーす!」準備を済ませてトーミヨへ向かう。

そういえば、ヨシュアくんはどうしているんだろう?魔族領から一番近いのはエルフ領だしエルフを味方につけている頃だろうか?

そうなった場合、次に向かうのはおそらく巨人族の方面だろう。エルフ領から一番近いのが巨人族領だからだ。



――国立魔導学校トーミヨ。


「――――ということで、今日はここまで。」実戦教官の授業が終わった。今日は実践訓練だった。

エリシアを見習って私も魔力を上げる努力をしてみて、かなり魔力が上がって、今や魔力は800を超えた。

その結果、実戦教官から評価してもらえた。氷魔法の扱い方がやはり他と違うようで、発想が素晴らしいと褒めてもらった。

…魔法の発想に関してはいつも褒められてるけど。

私の中で一番上手くいったのは、二年生の頃のロサリオの火球を氷球で包んで攻撃したことだ。

今回もソフィナに使われた落雷魔法を氷属性の魔法反射と水の電気を通す性質を利用して魔法攻撃をやり返した。

本人もそうとう驚いていたが、今の私は強くならなければならない。


確か、ソフィナが皺月の輝きに入りたいと言っていたが、私だってそれは同じなのだ。ガブリエルも入りたがっている。

何せ、世界を救う英雄になるチャンスである。……同時に命も賭けなければならないが、そんなものは魔導士を志したときから当然のものだ。


課外授業や皺月の輝きの事を考えながらトーミヨの廊下を歩くアデラ。

……ふと、学長室を通りかかると中から声が聞こえてきた。


「何?失敗しただと……?……あぁ。……あぁ…………それは問題ないだろうな?……うむ。」

シルビオ学長が魔法通話で誰かと会話しているようだ。


最近の学長を不審に思った私は聞き耳を立てることにした。


「……分かっている……俺の中にいる邪悪なる者も分かっていることだろう。……必ずトール・ヨシュアを捕らえてみせる。……では、よろしく頼むぞエルミリア。」


話している相手はアグスティナ魔帝国の魔女帝エルミリアだろう。そして……邪悪なる者……?


…………不安感がつのってくる…。ヨシュアくんたちは本当に大丈夫だろうか?


「そこにいるのは誰だ!?」シルビオ学長の声が学長室から聞こえてきた。私は急いでその場を離れた。



――ベルグリット村近辺。


「――ということがあったのよ。」馬車に乗りながら、アデラはレオに話す。


「なるほど……自分の中にいる…なんてわざわざ言っている以上、シルビオが邪悪なる者で確定だな。」レオは答える。


「もうすぐベルグリット村に着くけど……近いうちにでもヨシュアくんと会って脅威を伝えないといけないよね。」


「それはもちろんだ。俺たちはアイツの味方をする……これは、ほぼ決定事項だ。」


アデラは心配が拭いきれていないものの、好矢のことばかり心配している余裕はなかった。

これから行うのはリザードマン狩りだ。非常に強力な魔物で、集中しなければやられてしまう。


リザードマンは非常に賢く、分析防御を行うことも出来る本当に油断の出来ない相手だ。

とにかく、早いとこ依頼を遂行しないと……!


――龍の渓谷。


「こちらになります。」ベルグリット村のガイドさんが龍の渓谷の入口まで案内してくれた。


「案内ありがとう。…さっさとトカゲ野郎をぶっ倒さないとな。」レオが剣を構えて渓谷へ入って行く。その後に続くアデラ。


しばらく歩いていると、真っ直ぐ進む道から少し外れた道があり、その先には洞窟があった。

報告では、その洞窟からリザードマンの声が聞こえてきたという。アデラが後方を警戒しながらも、その洞窟へ近付いていく……。


洞窟の入口まで着いたが……外は真っ暗でとてもじゃないがこのまま進める道ではなかった。

「おい、松明を用意しろ。」レオは剣を下段に構えてアデラに指示した。「わかった!」

カバンから携帯松明を出して火を灯そうとした瞬間、入口傍の岩陰からレオたちに向かって何者かが飛び出してきた!

「そこだッ!!」下段に構えた剣を思いきり振り上げた!

ドサッ!とレオの前に倒れる。右半身の腕と足が切り落とされたリザードマンが横たわっている。

「ひっ!?」アデラは倒れたリザードマンを見て声を出す。「…早くつけろよ。」レオの言葉に我に返り携帯松明に火を灯すアデラ。かなり周囲が見やすくなった。

そのまま、レオとアデラは洞窟の奥へ進んでいく……。



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