第七十二話◆出発

その日の夕刻、ロスマの城で夕食を食べていた好矢たち。

リザードマンのステーキと聞いた時は引いたものの、かなり美味しく食べられた。

高級食材として知られるリザードマンは、毎年狩りのシーズンになるとベルグリット村から捕らえて運んでくれるそうだ。

ベルグリット村は龍の渓谷の入口にある村で、リザードマンは龍の渓谷に住んでいるそうだ。


その話を聞いた時に、まさか龍神族か!?と思った好矢だったが、リザードマンは龍神族ではないらしい。

何故なら、伝承に残っている龍神族は、身体の一部に鱗があり、その他は普通の人間と変わらないそうだ。

その人間の特殊能力として、ドラゴンに変身することが出来ることと、人間の姿のままでもドラゴンブレスが吐けるということだった。


そんな新しい発見をすることが出来た夕食の席は終わり、客室に通された。メルヴィンも王族の部屋ではなく客室に通された。

夕食後、普通に自室に向かおうとしたメルヴィンだったが父親であるフレッド王から

「お前はもうハンターなのだから王族の部屋に入るな。忘れ物があれば使用人に言え。」と言われたそうだ。

「中々に厳しい素敵なお父上じゃないか…」と本人に言ったが「横暴だ!」と叫んでいた。

部屋は二部屋用意されており、好矢とメルヴィン、沙羅とアウロラで部屋を使っていた。


その日の夜、好矢はベッドの上で座って唱えていた。(満優弍優不空五…魔力3883使用。)「発動。」

ズオォォッ!という音が身体のヘソの辺りから脳天へ抜けていき、一気に力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。

「こ…これはキツ……イ………」達成感や開放感の無い、ただ数十キロ走った直後の疲れのようなものが、どっと出てきたのだ。

地獄のようなキツさ……もちろん、実際に走ったりしているわけではないので、体力が付かなければ集中力が養われるわけでもない。

ただ、魔力を上げるだけの作業……。


その様子を見て、メルヴィンは「うわぁ…絶対やりたくないな……」と言っていたが、結局魔力を上げられるかもしれないという事実に、

腹を括ってやってみることにした。メルヴィンが魔力上昇の術をやっている様子を眠気で薄れていく意識の中眺めていたが、

メルヴィンがベッドに倒れ込んで言った言葉は「やらなければ良かった。」だった。

こんなものを毎日やろうとする人間はまずいないだろう。



次の日の朝……。身体がやけに軽かった。


「おはよう、メルヴィン。」既に起きて机で読書をしていたメルヴィンに声を掛ける。

「おはよう、ヨシュアくん。」パタンと本を閉じて「そろそろ行くかい?」と言ってきた。


時刻は朝7時ちょうどだ。

「いや…あと一時間待とう。」と好矢が言った。


「どうして?」


「女性は出掛ける準備に時間が掛かるだろ?待ってる間に、俺たちで魔法モニターを使わせてもらおう。」


好矢の提案にメルヴィンも賛成し、城を出て50m程度しか離れていない魔導士ギルドで魔法モニターを使わせてもらうことにした。


城の兵士や魔導士はもうとっくに起きており、訓練場では木刀を打ち合っている兵士たちの姿があり、反対側の訓練場では魔法を空に向けて放ったりしている魔導士の姿がある。

メルヴィンの話によると、城の兵士は、ちょうど城で夕食を食べている時間帯に自宅でご飯を食べ、その後すぐに剣や鎧の手入れをして、すぐに眠る。

朝4時半頃に起床し、城へ向かい、準備運動してから日課の訓練を始めるそうだ。


訓練が終わったら風呂に入って食事。他は座学をやり、その後で昼寝の時間があるそうだ。

話を聞いていると、大変そうながらも充実した毎日が送れそうな兵士の一日だった。


――魔導士ギルド。


受付を横目にスタスタと魔法モニターのイスに座り、確認をする好矢とメルヴィン。

「「魔法モニターオン!」」


名前:刀利 好矢 所属:皺月の輝き

職業:放浪魔導士 趣味:草むしり・魔物狩り

魔力:5780

使用可能魔法属性:水・氷・風・雷・土・光・植物・金属

使用不可魔法属性:火・闇

得意魔法属性:植物



名前:メルヴィン・バート 所属:皺月の輝き

職業:サヴァール王国第二王子 趣味:読書

魔力:4008

使用可能魔法属性:火・水・氷・風・雷・土・光・闇・植物・金属

使用不可魔法属性:なし

得意魔法属性:火


受付の人から渡されたカードを見ると、二人揃ってギョッとした。とてつもない数字になっているのだ。

だが、あのやり方を使うよりは、魔力増幅ポーションを作ってがぶ飲みした方が楽でもある。ただ上げるのであれば……だが。

魔力が高くなってから初めて気付いたことだが、魔力は高ければいいというものでもなければ、上級魔導語が使えればいいというものでもない。

使う者の心が一番大切なのだ……と気付くことが出来た。

そしてそれは同時に「満優弍優不空語」の魔法を唱えた直後の肉体的疲労と共に襲い掛かってくる精神的疲労を大切にしなければならないと感じさせられた。


力だけを求めるようになってはアグスティナ魔帝国のエルミリアと同じになってしまう。そうならない為の術後の疲れだと思っていた。



その日の10時頃、朝に弱い沙羅が起きてきた。普段より遅いな…と思っていたが、昨日アウロラに教わった魔力を上げる魔法を使って、疲れ果ててしまったらしい。

それから皺月の輝きの四人は、ロスマの街の入口近くにあるパン屋で軽食を摂ってから出発することになった。

場所はそう遠くはない。……龍の渓谷の入口、ベルグリット村だった。



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