第五十五話◆七代目魔王ガルイラ


――魔王都ガルイラ―門。


王都の門の前には三人の門番が立っており、壁を見上げると、壁の途中の窓から弓矢を持った門番が一人ずつ立っていた。

マリリンと一緒にいるお陰か、武器は構えられていないので警戒されているわけではなさそうだ。

マリリンはそのまま門番の所へ行って、話を始めた。……そして、しばらくすると、頭の上で◯を作る。王都へ入れるというOKサインだ。


門を開いてくれた門番に「すいません、お邪魔します。」と軽く会釈をして王都へ入って行く。

門番の人たちは全員魔族で、怖そうな見た目だったが、門を開けてくれた門番は意外にも優しかった。

「いらっしゃい、放浪魔導士トール・ヨシュア殿。ゴブリン族のエンテル嬢。」にこやかにそう言ってくれた。魔族というのはフレンドリーな人種なのだろうか?


ちなみにライドゥルは門番さんが預かってくれるそうで、首に持ち主の名前が書かれたカードをかけられ“搭乗用魔物場”と書かれた所へライドゥル二頭は連れて行かれた。


「…………。」魔王都ガルイラへ入るやいなや、早速また絶句した。

目の前に巨大な城が建っている。…おそらくアレが魔王城だろう。ちなみに、目の前と言っても遠くにあることは分かる。

ただ、かなり遠くにあることが分かっているのに、視界の三分の一を魔王城が占めているのだ。どれほどの大きさなのかは分かるだろう。


「そんなボサッとしてたらナメられるわよ。ほら、付いて来て!」マリリンにかされ、エンテルと一緒に足早に先を歩くマリリンに追い付いて並んで歩く。



一時間ほどずっと大通りを真っ直ぐ歩いており、魔王城は先ほどと比べると確実に大きく見えてきている。

しかし、いくら歩いても到着する気配がない。


「なぁ、マリリン。いつ着くんだ?」好矢は聞いてみたが……


「もうすぐよ。」



更にもう一時間経ち、ようやく魔王城の城門の前まで来た。

「あと半分なら半分って言えよ……。」


「さっきの黄色い屋根のパン屋さん通り過ぎたらもうすぐって感覚なのよね。私。」黄色い屋根のパン屋さん……

確かに良い匂いがしたので、どの建物のことを言っているのかは分かったが、そこから真っ直ぐ一時間進んで城門へ到着したので、ハッキリ言って遠い。


城門の前には、五人の兵士がいた。そんなに要らないだろうと思っていたが、この大きさの城にもし侵入者が入れば、隠れる所はいくらでもありそうなので、

この人数が入口を守っていても頷ける。

ちなみに、城を囲む城壁は一定間隔で兵士が配置されており、許可が無い者が入ることはもはや不可能であった。


「マリリン一等武官殿!お戻りになられましたか!……そちらの方は?」城門前の兵士がマリリンに声を掛ける。


本当に一等武官だったんだ…………。


「魔王様と謁見したいって人たちよ。とりあえず指揮官グランダルさん呼んでくれる?」


「はっ!!」兵士は敬礼し、その兵士は城へと走って行く。


「じゃあ、適当にその辺に座って待ってて。」マリリンが指差した先にはベンチがあり、長旅だったので好矢とエンテルはお言葉に甘えて座って待たせてもらった。


――十数分後、白銀と紫の色が織り交ざった美しくも恐ろしさがある鎧を着た男、指揮官グランダルがやって来た。


「……マリリンか。二泊も外泊して、一体どういうつもりだ?」


「それは悪かったわよ、グランダルさん。」


「何しに出掛けてた?」


「そ、それは……」恥ずかしそうに頬を染める。その様子を見てグランダルは溜息をつく。


「また、お散歩か。」


散歩ってそんなに恥ずかしいものだろうか……?魔族の価値観がよく解らない。


「……それで、わざわざ呼び出してどうした?」グランダルから本題を切り出してくれた。


「魔王様に謁見したいんだって。そこの二人が。」指をさされたので、立ち上がってグランダルの元へ駆け寄ってお辞儀をする好矢。

その好矢の様子を真似て、横で頭をさげるエンテル。

「初めまして。エレンの街から参りました、人間族の刀利好矢です。」


「トール・ヨシュアか……お前は?」エンテルの方を向く。


「わたひ、ごぶりんのえんてる!」手を挙げて喋るエンテル。


「喋れるゴブリン族……?謁見理由は?」


案の定理由を聞かれたので、マリリンに話した通りの話をした。


「…………我々の王様は本当に素晴らしく凄い御方だ。……でもその問いには戸惑われることだろう。」

解っていた答えではあったが、漠然と魔王様と謁見すれば大丈夫だと思っていた。理由は全然解らないが。


「……まぁいい。実際に謁見して諦めるといい。……その代わり、この腕輪を付けろ。」そう言ってグランダルは綺麗な腕輪を好矢とエンテルに渡した。


「これは……?」


「それは、封魔の腕輪。その腕輪を身に着けている者は、魔法を使うことが出来なくなる。魔王様と謁見したければそれを装着しろ。」


グランダルに言われて、何の迷いもなく封魔の腕輪を身に着ける好矢とエンテル。

言われた通りにしただけなのに、マリリンとグランダルはかなり驚いていた。

「うそ……」

「ま、まさか本当にやるとは……」


「え?だって、着けないと謁見出来ないんですよね?」好矢は言った。


「確かにそう言ったが、お前は魔導士だろう?魔法を封じられたら何も出来ないんだぞ?」驚いた表情のままグランダルは言った。


この世界において、魔法が使えない魔導士はただの非力な人間だ。自らそうなる人は、まずいない。

だから、しばらく躊躇している間に「その勇気がないのなら、諦めろ。」というつもりだった。


「わ、分かった……希望通り謁見させてやろう。付いて来い。」グランダルは後ろを向き歩き出し、好矢とエンテルは付いて行く。二人の後ろにはマリリンが付いて来ていた。

何だか連行されている気分になった。


――魔王城―玉座。


七代目魔王ガルイラは、玉座に背筋を伸ばして座り、本を読んでいる。

謁見を許可した人間とゴブリンがいると聞いたが、上がって来るまでにちょうど読み終えそうだったからだ。

玉座の背もたれに身体を預けないのは彼の癖で、背筋を伸ばす癖があった。


案の定、ちょうど読み終えたところで、扉から四回ノックする音が聞こえた。

ガルイラ王は急いで背もたれに寄りかかり、踏ん反り返るような姿勢をとってから「入れ。」とガルイラ王は低い声で答えた。

低い声にするのは威厳のためだ。


グランダルの後ろに、封魔の腕輪を付けた好矢とエンテルがやって来て、その後ろからマリリンが来て、扉を閉めた。

玉座の前まで行き、片膝を付くグランダル。それを真似て片膝を付く好矢。その好矢を真似て片膝を付くエンテル。


「我が名は七代目魔王ガルイラ……お主達の名前は?」


「…初めまして。エレンの街から参りました。人間族の刀利好矢です。」

「わたひ、ごぶりんのえんてる!こんちわ!」


エンテルの緊張感の無い挨拶にヒヤッとしたが、ガルイラ王はそれを咎めずに続けた。


「エンテルか……お主、顔を上げよ。」エンテルは言葉に従い、顔を上げた。


「お…お主は……!!」

七代目魔王ガルイラの眼前には、普段通りのゴブリン族のエンテルが映っていたのだが…………





第二章★外の世界編 終




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