第三章★龍神族編
第五十六話◆復活
「……わふ?」驚いているガルイラ王を不思議そうに見つめながら首を傾げるエンテル。
「……お主、名前は?」先ほど質問したのだが、あまりの衝撃で忘れてしまったようだ。
「えんてる。」嫌な顔一つせずに名前を名乗るエンテル。
「ゴブリンとして生活していたのか……。」ガルイラ王は溜息をつく。
……ゴブリンとして?……どういうことだ?
「……お主、人間族に戻りたくはないか?」ガルイラ王は踏ん反り返る事をやめ、背筋を伸ばしながらエンテルと話し始める。
魔王が背筋を伸ばして話すのが癖だと知らない好矢は、姿勢を正してエンテルと話し始めるとは、まさかエンテルは実はとてつもなく凄いヤツなのか?と思っていた。
「にんげんぞく!?あたひ、なれるの!?」嬉しそうにしているエンテル。ゴブリン族だった彼女は人間族に憧れていたらしい。
確かに彼女は、洞窟暮らしの頃、人間の生活を教えてやると目を輝かせて楽しそうにしていた。
……次の瞬間、七代目魔王ガルイラは驚くべき発言をした。
「やはり記憶を失っているのか……伝説の英雄サラ・キャリヤーよ。」
「えっ……?」好矢は許可されていないのに顔を上げてしまった。
ガルイラ王はチラッと好矢の顔を見て話した。
「……お主がサラをここまで案内したのか?」
「す、すいません。あの…サラって、エンテルがでしょうか……?」失礼のないようにと思いつつも戸惑いが隠せない話し方をする好矢。
それを察したガルイラ王は優しく微笑んで言った。
「そう緊張するな。楽にして構わん。エンテルと名乗ったそのゴブリンは、間違いなく正真正銘、我が父の恩人サラ・キャリヤーだ。」断言するガルイラ王。
グランダルが口を開く。
「ヨシュア……お前は、サラ・キャリヤーの伝説を知らないのか?」
「あっ、いえ…サラ・キャリヤーは悪しき者を封印するため、自らの命と共にコールブランドに封印された伝説の英雄……ですよね?」
「その通り。しかし、コールブランドに封印されたのはサラ・キャリヤーの身体だけだ。魂は外へ抜け出している。」
ガルイラ王が詳細の説明をしてくれた。
「えっ?それは……知りませんでした。」
今度はマリリンが口を開く。
「前六代目魔王様が崩御なされる直前、サラ・キャリヤーが封印されたコールブランドから、魂だけを取り出したの。」
「どうしてそんな事を……?」好矢が尋ねる。
「伝説に名を残す、
それよりは、いつか
人権的に問題がある気がしたが、そういうものは魔族の間では……あるいは、この世界には、そう言った概念があまり無いのかもしれない。
しかし、魂を取り出すことが出来たとして、ゴブリンになっているのはどういうことだろうか?それを訪ねてみることにした。それについても国王は答えてくれた。
「魂を取り出してしばらく放置していると、魂はその人間が死亡したと認識して消滅してしまう。だから、同時刻に死亡した者の身体に魂を吸い込ませて、再び生活が出来るようにした。しかし、魂の行き先までは選ぶことは出来ない。その結果、ゴブリンの身体に吸い込まれてしまったようだ。」
封印され、魂を取り出したその瞬間、亡くなってしまった人間に、魂が吸い込まれる……
つまり、エンテルは本来、もうこの世にはいないはずの存在……ということになる。
「それで……彼女を元に戻すにはどうすれば……?」好矢は再びガルイラ王に尋ねる。
「ふむぅ…………時が来たか。」そう言って、玉座から立ち上がった。
「トール・ヨシュア、エンテルよ。我に付いて参れ。」そう言って、好矢たちを通り過ぎて、謁見の為に入ってきた扉へと向かった。
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ガルイラ王に連れられやって来たのは、魔王城の中庭。
中庭は廃墟や遺跡のような様相になっており、周りの城壁とは雰囲気が違った。
その中庭の中心の祭壇に、一際輝く剣が一本刺さっている。
ガルイラ王は振り返って、エンテルに声を掛ける。
「エンテル……人間族の姿に戻ることを望むのであれば、あそこに刺さっている剣を引き抜くがいい。」
「お、王様!そんな事をしてしまったら悪しき者が……!!」グランダルは止めようとするが……
「構わぬ。悪しき者はもうすでにこの封印を破っておる……。今封印されているのはサラ・キャリヤーだけだ。」
「なッ……!?」
ガルイラ王の信じがたい発言に、言葉が詰まる。
「わふ!」エンテルは祭壇の剣の元へ来ていた。
「悪しき者は、グラスに注いだ水が少しずつ蒸発するように、徐々にコールブランドから抜けて行った。今の所、何も起こっていないことが不気味ではあるが……しかし、五百年もの間よく保ってくれた。……さあ、エンテル。そこに刺さっているコールブランドを引き抜くのだ!」
エンテルはガルイラ王に言われた通り、コールブランドの柄を握ると、力一杯に思い切り引き抜いた!
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抜き切ると、しばらくの沈黙が流れた…………。
そして……
ゴオォォォォォォォォォ………!!!物凄い轟音がエンテルから発せられる。
それと共に、エンテルとコールブランドは真っ白な光に包まれていく……。
ゴオォォォという轟音が止み始めるのと同時に、今度はバリバリバリバリ!!と電撃のような音が鳴り始めた!
そのバリバリという音が止み切ると、エンテルの絶叫が聞こえてきた。
「わふふ…わふ…わ……う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」そして次第に、ゴブリン族特有の声から、人間の女性の声に変わっていった。
パァァァンッッ!!という激しい破裂音と共に、その場にいる全員の視界は光により白一色になった。
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そして、視界が回復し、目が見えるようになってくると、好矢の目の前にコールブランドを持った女性がポカンとしたまま立っていた。
「あ…あれ……?」
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