第五十三話◆四学年模擬戦・優勝


決勝戦はソフィナとレオのBチームvsエリシアとルイシナのGチームだ。

ルイシナ・アシュビーは氷属性を得意とする女子学生。好矢がトーミヨの模擬戦で初めて当たった相手チームのリーダーだった人物だ。


ソフィナとエリシアの得意属性は雷。この戦いではどちらが上手く魔法を使えたかがカギとなる。

レオはソフィナの火力アップ、もしくは命中精度向上の為、得意属性である風魔法を。

ルイシナは、エリシアが継続的に雷魔法が撃てるように、得意な氷魔法による回復や防御魔法を主に行うつもりのようだ。


回復というのは、二学年用の魔導医学書に載っているヒールという名前が付けられた魔法のことなのだが、これは所謂体力と魔力を回復させる効果のある魔法。

これは色んな属性で使うことが出来るが、氷属性で発動させるのが一番簡単らしく、この氷属性のヒールを使えば、実戦教官が展開してくれた防護魔法のゲージを回復させることが出来る。


ちなみに、魔法バフでもないのに魔法に名前が付いているのには理由がある。

それは、今の魔法の形態の元祖となった、原始魔法学に関わってくる。

原始魔法学による魔法は全て無属性魔法という対処が難しい魔法として処理される。

無属性の炎魔法や、無属性の氷魔法……はたまた無属性の雷魔法というものが存在しており、自然の摂理とは完全にかけ離れた魔法学が、原始魔法学である。


ヒールはその原始魔法学の中でも一番簡単な魔法で、優秀な学生であれば学生のうちからでも発動させられる魔法なのだ。

ちなみに色んな属性でヒールが使えるというのは、色んな属性から原始魔法という枠組みにアクセス出来る……というと分かりやすいだろうか?


例えば、氷属性が使えないとある魔導士が、氷属性魔法を使いたかったとする。

彼は偶々原始魔法学を勉強していた。そこで彼は、得意属性の火属性を用いて、無属性の原始魔法にアクセスする。

そこから無属性の氷属性を探し出して使用する……ということが出来るのだ。

もちろん、無属性魔法が得意な魔導士は様々な属性魔法を無属性として使用することが出来る。


この場合必要になるのは、魔導語ではなく、呪文である。

……つまり、決められた詠唱を行って、決められた量の魔力を使用することで、初めて発動することが出来る、ルールに縛られた魔法だ。

原始魔法学は、複雑な発動方法から衰退していったものだが、トーミヨではあえてそれも教えている。なにせ威力が絶大だからだ。


原始魔法学は分かりやすく言えば、ゲームに出てくるようなファイアやアイスといった魔法を使うために必要なもの。

ゲームでは決められた魔力(MP)を使用する。魔力(MP)が足らなければ、発動することが出来ない。というものだ。

この世界では、残り魔力90で、100を消費して魔法を放つことは出来ないが、同じ魔法の出力を変えることで魔力を90消費して放ったりすることが出来る。


こういった新しい魔法の形によって、原始魔法学は衰退の道を歩むことになってしまった。

しかし、前述した通り威力は折り紙付き。トーミヨ卒業後使おうと勉強する魔導士が多かった為、カリキュラムに原始魔法学を多少含めることにしたのだ。


とはいえ、カリキュラムに組み込んだものの、完全に理解出来た人はほぼ居ない。魔導語も使わない魔法なので、好矢でもかなり苦労することだろう。


説明が長くなったが、ルイシナが使おうとしている魔法は、そんな凄まじい原始魔法の初歩魔法だった。


「決勝戦……BチームvsGチーム……始め!」


「「「「発動ッ!!」」」」

ソフィナとエリシアは雷球を発動し、エリシアはレオに、ソフィナはルイシナに対して魔法を放った。

二人の魔法は、途中でぶつかり合い、誰にも当たることなく弾け飛んだ。

ルイシナは、氷属性の魔法障壁をエリシア一人に付与。レオは、強風でソフィナを浮かせた。


「……もう一度、発動!」ルイシナは今度は自分に魔法障壁を掛けた。分けた理由は最近授業で習ったものだ。

持っている魔力量が少ない者が広域魔法を使用すると、効果が薄れてしまうことがあるため、あえて単体に使用することで、

魔力は少し余計に消費するものの、しっかりとした効果が期待出来る障壁を張ることが出来るのだ。


その証拠に、雷球が消し飛んだのと同時に発動されたソフィナによる雷光がルイシナに命中したが、氷の魔法障壁が一撃で割れるだけで、ゲージにダメージは無かった。


「私は、みんなが魔法の練習に明け暮れて講義で寝てる間に、良いこと聞いちゃったんだから!」

四学年の学生たちは、好矢という強すぎる存在のせいで勉強よりも魔力量を重視するようになってしまっていたのだ。

好矢はしっかりと勉強もしていたのだが、それを知っているのは仲間内だけで、ほとんどの学生は好矢は努力をしないタイプの天才だと思い込んでいた。


実際影ではエリシア並の努力があり、この世界の常識を学ぶために児童向けの絵本ですら熱心に読んでいる好矢を知っているソフィナ。

ルイシナの魔法を大切にする姿勢は、好矢と少しだけ似ていた気がした。



BチームとGチームはお互いが少しずつダメージを減らし、両チーム共残りゲージが二割を切っていた。

ルイシナがヒールを発動する!Gチームのゲージは五割まで回復した。


ソフィナはエリシアの魔法によって魔法が相殺され続け、残りの魔力量が明らかに減っていることが判っていた。

しかし、エリシアもそれは同じことだ。



(らい球……最大火力 あ音速ではっしゃ……!)「発動!!」

(雷球……最大火力……高速で発しゃ!!)「発動!!」


ソフィナは倒れることを覚悟して、今放てる最高火力の雷球を亜音速で放った!

エリシアも負けまいと同じような雷球を放つ!


エリシアの方が魔導語の勉強も長いことしていたので、上級魔導語をしっかりと使えているエリシアの雷球の方が威力が高かった。

……バァァン!という音を立てて両者の雷球は消し飛び、

ソフィナの視界には、消し飛んだ閃光から突然氷の槍が大量に飛んできた!


ルイシナの氷属性魔法攻撃だった。


Bチームのゲージは空になり、Gチームの優勝が決した。


「四学年模擬戦決勝戦……Bチーム vs Gチーム……Gチームの優勝です!!」


ワアァァァァァァーーーーーッッ!!!!


「わ、私が……負け…た……?」

「か……勝った……!初めてソフィナに勝っ……」

歓声に包まれながら、ソフィナとエリシアは魔力欠乏状態になり倒れた。


魔力欠乏状態と、魔力欠乏症にはハッキリとした違いがあり、しばらく休憩すれば回復するかしないかの違いがあった。

回復しなかった場合が魔力欠乏症で、これは死を招く危険な病気だ。


ソフィナとエリシアは元々の最大魔力が高いので、魔力欠乏状態で済んでいた。



医務室のベッドで二人並んで眠っている。

すぐに目が覚めると聞いていたので、教室に戻ろう。

ガブリエルは、バルトロ森林から採ってきた青いリンゴを二つ置いて、医務室を後にした。




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