第四十八話◆治療

ライドゥルを走らせて途中でライドゥルを休憩させたり、夜になったら眠ったりしながら丸一日が経過した頃にはもうすでに魔族領には付いていた。

もうすぐ魔族領の町があるはずだ。そう思いながらライドゥルを走らせていると、

地平線の向こうに木々に囲まれた家々が見え始めた。頑丈そうな壁がない町は始めて見る。地図で確認すると、迂回した林の反対側に村があった。

ちょうどその場所が今俺たちの視界に入っている村だろう。

もしかすると、町くらいの規模になって初めて壁が作られるのかもしれない。

何人かで金属魔法や植物魔法を使えば数時間で完成するので、壁を作る時間はそれほど掛からない。ということは、どこかから許可が必要だったりするのだろう。


むしろ木々に囲まれているから、壁は特に必要としない…ということかもしれない。

木々の間からは人間一人として入れそうにないようになっている。


村の近くまで到着すると、頭から山羊の角みたいな形の角を生やした男性が一人槍を持って立っていた。

肌は青っぽい。村の中で走り回っている女性が目に入ったが、肌は正真正銘の真っ黒だった。色の濃い黒人のように焦げ茶色っぽい部分が光の反射で見えるわけではなく、

光の反射があっても黒く光り、完全に真っ黒なのだ。


「ようこそ、ラエルの村へ!」丁寧に敬礼してくれた。


「あ、初めまして。今初めて魔族領の村に来たんですけど……」好矢は伝える。


「君たち人間か……それと……ゴブリン族かな?」


「はい、そうです。」エンテルが答える。


「喋れるゴブリン族!?産まれて初めて見たよ……。」中々話し方からしてフレンドリーな門番のようだ。

エレンの町の門番よりもよっぽどフレンドリーに見えた。


「村へ入っても大丈夫でしょうか?」


「あぁ、いいよ。でもゴブリンのキミは……大丈夫?」


「わたひ、ひと おそわない!」エンテルは宣言する。


「うん……こんなに頭が良いなら大丈夫だろう。でも、万が一キミが暴れたりしたら、こっちは相応の行動を取るからね?いいかな?」


「うん。」エンテルは答える。


ここも多少の差別はあるようだ。人間と魔族は友好的であるものの、所々、魔族が人間を見下しているような部分が見受けられる。

基本的には、魔族の方が圧倒的に強いからだ。

ゴブリンが人間によって棲む所を奪われたという過去があるが、それは魔族も自分たちの住処のために協力している。

だから魔族からも少し差別されてしまうらしい。


とりあえず、ライドゥル二頭は、植物魔法で作ったロープで近くの木に括って、逃げないようにしておいた。


無事村に入ることが出来たが、妙に騒々しい。

後ろを振り返って門番に話を聞いてみると、村で産まれたばかりの赤ちゃんが産まれた瞬間死にかけていたらしい。

原因が解らず、色んな対応に追われているそうだ。


ちょうど特に人の出入りが激しい家があったので、そこがその赤ちゃんがいる家なんだと判った。

しばらく静観していると、後ろから白衣を着た魔族が走ってきて、その家の中に入って行った。直感的にこの世界の医者だと悟った好矢は、その医者に続いて家の中に入ってみた。


家の奥には布団が敷いてあり、かわいらしい赤ちゃんが寝ているが、苦しそうにしている。

村の人達は好矢を見た瞬間「誰だこいつ!?」みたいな顔をしていたが、医者のすぐ後に入ったので、医者の弟子か何かだと思ってくれたようだ。


「あぁっ、先生!お願いします!!」赤ちゃんの父親らしき若い魔族の男性がすがるように話している。


「落ち着いてください。まずは症状を診ますから……。」

医者は赤ちゃんのぷくぷくした手足を念入りに観察したり、少し押したりしながら、赤ちゃんの目を見たりしていた。

その後赤ちゃんの口を開けて、口の中を確認。


それらを行ってしばらく経ってから一言……

魔力欠乏症まりょくけつぼうしょうです。」


「そ…そんな……。」父親は座り込んでしまった。


「何とかならないの!?」村の人達も言っている。


「進行を遅らせることは可能です……。しかし、こんな幼い子を長い時間苦しませるよりも、不謹慎ですが、安楽死を選択してあげた方が賢明かと…………。」

医者はハッキリとそう言った。


「……少し考えさせてください。」父親は言った。


好矢はちょうど、前にまた偶然出来た赤紫色のポーションをカバンから取り出して、医者に見せた。

「すみません。通りすがりの放浪魔導士です。……このポーションを使えませんか?」


「このポーションは何だい……?」医者はそのポーションを手に取って聞いてきた。


「俺はエレンの町出身の人間ですが、知り合いの父親の魔力欠乏症がそのポーションで良くなりました。」好矢がそういうと周りがザワザワし始めた。


「何をバカなことを!そんなこと有り得ない!魔力欠乏症は現在治療法が解っていない不治の病だ!」医者は怒鳴ってくる。

急に大きな声を出してきたので驚いたが、シルビオ学長がピキッた時の表情をつい重ねてしまうと、全然恐いと思わなかった。


「き……キミ……それは本当かい………?」赤ちゃんの父親が聞いてきた。


「……信じられないかもしれませんが、本当です。しかし、患者は大人だったし、全部飲ませないと効かない可能性もあります。不確定要素がまだ多いんです。」好矢はとりあえずそう伝えてみた。


「小さいカップはないか?」医者は父親に聞いた。


「あ、あります!」父親はカップを取りにキッチンへ向かった。


「キミ、名前は?」医者から名前を聞かれた。


「刀利好矢といいます。こっちはエンテル。ゴブリン族ですが、賢いので人を襲ったりしません。」


「ゴブリン族と人間の組み合わせか……中々珍しいな。私はルイス・ラドクリフと言う。……もしこの薬が効かなかったらどう説明するつもりだ?」


「俺は飽くまで実際の経験を話しただけです。それに今回も治ると言い切ってはいませんし、そもそも治るということも言っていません。」


「何だかセコい事を言っているように聞こえるな……。」


「ありのままを伝えました。これで皆さんから非難を浴びるようならこの村から逃げ出すだけです。」


逃げるというワードまで言い切ると、周りに居た村の人の目が変わった。良い意味でだ。

「元々、不治の病なんだ。治らなくてもガッカリはするけど、非難を浴びさせたりはしないよ!」と魔族のおばさんが言ってくれた。


好矢が少し安心していると、父親が小さいカップを持って戻って来た。

トーミヨの薬学室で教官と一緒に使ったショットグラスサイズのカップと同じものだった。


「……よし、じゃあ少しポーションを飲ませてみよう。」


カップにポーションを注いで赤ちゃんに飲ませてみた。



10分後……もう赤ちゃんは苦しそうな顔ではなくなって、スヤスヤと眠った表情になっていた。

そして、赤ちゃんに全てのポーションを飲ませ切ることが出来た。元々それほど多くなかったのが良かったのだろう。


すると空き瓶を好矢に、カップを父親に渡して、また手足を触ったり口を見たり診察を始めた。

「……なんということだ。」医者は呟いた。


「どうしました?」父親が聞いてくる。


「治ってる…………。」医者が呟いた。


「「「オオォォォーーーーッッ!!!」」」家の中で歓声が挙がった!




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