第四十九話◆報酬
………………
「良かったぁ~!治ってよかった!!」
「良かったですね。」好矢は言う。
「ありがとう!ありがとう!名前は何ていうんだい?」
「刀利好矢です。」
「トール・ヨシュアくんか!ありがとう!」
父親は興奮して自分の名前を名乗ることも忘れてしまっていた。
「今回の私は役立たずだったようだね……。報酬金だが、私は交通費と診察料だけ貰えればそれでいい。治療費として徴収するはずだった報酬金は全てヨシュアくんに渡してくれ。」
そう言って、父親が渡してきた革袋には大量のコインが入っていた。
そこから銀貨十五枚…1500コインを取り出して、残りを全て好矢に渡した。
その中には、薬代、報酬金がまとめて入っており、全部で37000コイン(ミスリル銀貨三枚、銀貨七十枚)入っていた。
「ところで、ヨシュアくん……あのポーションはどうやって作ったんだ?」医者が聞いてきた。必ず聞いてくると解っていたが、答えることは出来ない。
「すみません。教えたくないわけではないんですが、偶然作れたんです。作り方はまだ確立していません。」
「そうか……。」少し残念そうにする医者。
「ですが、判った場合はお知らせしたいと思います。ですが、絶対に医療目的以外では使わないでください。」
「その通りだよ。魔力欠乏症を治せる薬…それ即ち、最大魔力を増やす薬だ……これの取り合いで戦争が起こったとしても不思議ではない。」
「そういうことです。」好矢はそう言って、革袋をカバンにしまった。まだまだお金は持っているが、思わぬ収入があったのは嬉しかった。
「すみません……」
「何でしょうか?」父親は急に丁寧語になっていた。
「この村の宿屋ってどこにありますか?」好矢がそう聞くと、父親からも何となく言われるなと思っていたことを言われた。
「泊まる場所を探してるのでしたら、是非ウチに泊まっていってください!」
すると、後ろからおばさんが歩いてきて、父親の頭に、ゴチンと拳骨を出した!
「ウチの店から客を奪ったりしないでおくれよ!……トール・ヨシュアくんだっけ?アタシは宿屋をやってるんだ。
部屋が空いてるから、一番良い部屋泊めてやるよ!一泊だけタダにしといてやるよ!…二泊以上するなら、その分のお代はキッチリいただくけどね!」
宿屋のおばさんは笑いながら言ってくれた。
「ありがとうございます。では、俺たちはこれで。……では、宿屋まで案内お願いします。」
「はいよー!」
ラエルの村の宿屋へ向かいながら話していた。
「そういえば、若いのに放浪魔導士なんて珍しいねぇ……就職出来なかったのかい?」
「いえ……俺はトーミヨの学生だったんですが、この俺の隣にいるゴブリンのエンテルを保護しようとすると、町に入れられないと言われまして……。」
「えぇっ!?あのトーミヨの学生さんだったのかい!!そりゃあ優れた魔導士なわけだ……。でも、トーミヨってことはエレンの町だろ?どうして入れてもらえないんだろう?」
「……そこなんです。市長…つまりシルビオ学長に、ここが人間の醜いところだって言って出てきたんですが……エレンの町ってどの種族も受け入れる町って知ってますか?」
「あたしゃ、そう聞いているねぇ……」
「人間族、魔族、エルフ族、ドワーフ族……それらの一般的に人類の一括りとして言われている種族であれば問題ないそうですが、ゴブリン族は魔物だと言って入れてもらえないんです。」
「まち、はいれなかた。」エンテルも同意する。
「エレンの連中は頭が硬いねぇ……」
「むしろ、ガトスの町は受け入れてくれました。魔力を持っているっていうことは人類種族の一つだって……。」
「そうかい…………あっ、着いたよ。ここだ。」
入口は一つだったが、見た目は完全に木製の二階建てアパートだった。
「じゃあ、手続きするから入ろうか。」おばさんに続いて部屋を借りる手続きをした。
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「本当に良い部屋だな……これが一泊だけタダか……」
「ベッド、ふかふか!」エンテルはベッドにダイブして喜んでいた。
「とりあえず、この町で二、三日休ませてもらったら、魔王都まで行こうな!」とりあえずエンテルに言い聞かせた。
この喜びようでは、しばらく泊まりたい!と言いそうだったからだ。
その夜――
「むにゃ……んん?」好矢の眼が覚めた。
「あぁ……変な時間に起きちゃったか……。」
好矢は窓の外を見て何となく理解した。
隣ではエンテルが静かに寝息を立てているが、時々くかぁ~という小さいイビキを立てている。
「散歩でもしてくるか………」好矢はそう言って、エンテルの布団を掛け直してやり、散歩に出て行った。
適当に散歩をしていると、屋台があった。
串焼きが売っていた。長い竹串に鳥肉、牛肉、豚肉、羊肉がそれぞれ二個ずつ刺さっており、一本200コインだったので、とりあえず銀貨を4枚渡して、エンテルに買った。
寝ていたが、美味しいものに目がない彼女なので、部屋に戻って食べていれば匂いで起きるだろう。
「……ただいまっと。」好矢は部屋に戻って、耐油紙に入った串焼きを一本取り出し、エンテルの寝顔を見ながら食べ始めた。
「わふ……これが…こーるぶらんど…………」突然エンテルが寝言を言った。
「コールブランド……?」好矢はそのワードを知っている。
コールブランドと言えば……サラ・キャリヤーの英雄伝説に登場する、サラが扱っていたと言われている伝説の聖剣の名前だ……。エクスキャリバーとも呼ばれている。
なぜエンテルがこの話を……?誰もが知っているおとぎ話とはいえ、ゴブリンの洞窟でそんな話は聞いたことが無い。
もちろん、好矢もエンテルに英雄伝説の話をしたことがないし…………
医学生としての勤勉さの故か、解らないことをそのままにしておくのは、好矢の生き方に反するのだが調べる方法が無いのでどうしようもなかった。
とりあえず気にしないで食べ続けることにした。しばらく食べていると、部屋に串焼きの匂いが充満する。
「わふぅ……じゅるっ」エンテルがよだれを垂らしながら目が覚めた。
「ごめん、エンテル。起こしちゃったか。」
「よしや、それなに?」
「串焼きだよ。さっき屋台行ったら売ってたんだ。」
「わたひもかてくる!」エンテルはベッドを飛び出した。
「エンテルの分も買ってあるよ。……はい。」
「わふぅ!」エンテルは嬉しそうに串焼きに齧り付いた。
さて、明日は赤紫色のポーションの研究と魔法の訓練しておくか……。
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