第四十六話◆皺月の輝き

今日もポーションの卸し作業の後、ギルドへ向かって依頼をこなした。


「ふうっ……今日はこんなもんでいいか!」


ガトスの町に暮らし始めてちょうど1年が経っているということは、ソフィナ達は四学年になったのだ。みんな元気にしているだろうか……?


そう考えている俺は、今日もかなり疲れた。最近では一日当たりの使用魔力は2000前後。しかし、疲れはするものの倒れたり動けなくなったりするほどの疲労感は無いので、

かなり魔力が上がっている事が分かっている。

しかし、去年から一度も魔法モニターを確認していない。一気に増えているのを確認するのが楽しいからだ。

トーミヨの学生の頃もそれをよくやっていた。

ちなみに先ほどこなしたという依頼は、魔物狩りの依頼だ。


その依頼もお金がもらえるからだけでなく、時々、ブタのような魔物が出現する。そいつを狩ってきては捌いて「今日は御馳走だ~!」「わふ~!」というやり取りをしていた。

そいつの肉がまた美味しくて、まさに豚肉の味がするのだ。


もはやこの魔物狩りは趣味と化していて、討伐依頼など出さずとも好矢は自主的に食べるために狩りに出掛ける。

余った魔物の肉は、町民の貧しい順に配って回ったりしており、ガトスの町全体にトール・ヨシュアとエンテルの名前は広まっていた。


しかし今回は、お金も貯まり、冒険用のセットを用意するため、お金が必要だったので、しっかりと依頼として魔物狩りをしてきた。

買い物では、前はテントで寝るだけだったのが、テントの中で使うための毛布まで自分用とエンテル用、そして予備としてもう一つ用意するほどだ。

荷物に関しては、カバンにかけてある面積を広げる魔法を使えば仕舞えるので、特に困らない。


カバンの中身は、テント、毛布三枚、携帯松明20本、保存食約一ヶ月分、ポーション類、薬草類だ。

これらが全て入っているのだが、魔法で閉じてしまえば、特に重さは感じない。画期的な魔法だった。

さらに途中から気付いたことだが、保存食を詰め始めた辺りで一度入らなくなったのだが、魔力を追加使用するとさらに面積が広がったのだ。

拡張できる面積に限度はあるかもしれないが、今のところは用意したもの全て入れた上で、エンテルが一人入るくらいの面積にしてある。


それとこの一年で、所持している薬草の名前は全て記憶した。

雑草と薬草はそのままで、色のついた草には名前があり、赤い草がポポイ草。白い草がペッペ草。青い草がソムソム草らしい。

何ともかわいらしい響きの名前が多いのが不思議である。

ちなみに、未だ赤紫色のポーションの作り方は解っていない。偶然またもう一本作れたのだが、今回は普段見掛けないような草を調合したような記憶がある。

疲れて眠くなりウトウトしながら作った時に赤紫色のポーションが完成して、一気に目が冴えたのを覚えている。

これが普通に作れるようになれば、ミハエルの父親のような魔力欠乏症に悩まされている人を救うことが出来るかもしれない。


道具屋は今では大繁盛しており、好矢はとても感謝されている。

取引は未だ続いているが、例の道具屋と取引をすることで、自分の店の売名も出来るとのことから、

色んな店から取引を持ち掛けられ、基本的にお互いの利益になりうる場合は、ほぼ引き受けている。


例の好矢が作ったバフポーションは、特別感謝祭という店でやっているキャンペーンの時だけ販売するという形をとり、

他のポーション類よりも価格を高く設定して、販売個数を少なめにすることで限定感を出して売上に計上し、

さらに販売数が少ないため、好矢も卸すのはたまにで済むので、結果お互いが助かっていた。


そんな好矢たちは今、魔族領へ行って魔王様と謁見するのを目標としている。

理由は、魔王との謁見によって世界に起こるであろう異変のカギを掴もうとしていたのだ。

持ち前の勘で、魔王様と謁見すれば何かが分かるような気がしていた。特に根拠はない。

ちなみに、魔王といってもゲームに出てくる世界の半分を勇者に渡そうと誘って寝首を掻いたり、打倒するべき存在ではなく、魔族という一種族の王のことである。

要は、人間の王とさほど変わらないのだ。

ちなみに、人間が住む国、魔族が住む国はそれぞれ二つ存在し、もう一人の魔王の評判はハッキリ言って良くない。

ちょくちょく人間の国や隣の魔族の国に侵攻してくるそうだ。

ちなみに、人間や魔族以外の、エルフ族などの他種族の国は、それぞれ一カ国あるらしい。



今夜は普段よりも長い間、魔法の訓練をしていたので、非常に疲れてしまっていた。

明日一日休みにして、明後日の朝から出発することにした。


――魔導士ギルド。

翌日、昼過ぎに起きてエンテルと共に魔導士ギルドでどれほど成長したか見ることにした。

明日から旅に出るので、自分が大体どれくらい強くなったか、参考程度に知っておく必要があると判断したからだ。

「いらっしゃい。」受付の人の声が聞こえる。


「ちょっと、魔力確認させてもらうよ。」好矢はそう言いながらイスへ歩いて行った。

「どうぞ~!」


「えっと……魔法モニター・オン!」このセリフも一年ぶりである。一瞬、座って何て言えばいいのか忘れかけたほどである。


名前:刀利 好矢 所属:なし

職業:放浪魔導士 趣味:草むしり・魔物狩り

魔力:3413

使用可能魔法属性:水・氷・風・雷・土・光・植物・金属

使用不可魔法属性:火・闇

得意魔法属性:植物


去年と比べて三倍以上増えている……!!

トーミヨに在籍中は、五学年に上がる頃には魔力1500を目指していたが、今ではかわいいものである。

ソフィナ達はどれくらいだろうか?おそらくソフィナは1000は到達してるだろう。

好矢がイスから降りて、次はエンテルが座る。


「わふ!…魔法もにたー・おん!」


名前:エンテル 所属:なし

職業:なし 趣味:好矢の手伝い

魔力:632

使用可能魔法属性:火・水・氷・風・雷・土・光・闇・植物・金属

使用不可魔法属性:なし

得意魔法属性:火


エンテルがイスから降りて、受付の人からカードを受け取る。

エンテルの魔力もかなり増えているようだ。そして、焚き火を作らせたり火を使った色んな魔法を使わせて、全て器用にこなしていたエンテルは、

とうとう火属性が得意魔法属性になっていたようだ。


「よくやったな、エンテル!」好矢はそう言って頭を撫でてやった。


「トール・ヨシュア様はこちらのカードです。かなり増えましたねぇ……」


「あぁ、まさか3000超えているとは思ってなかったよ。」


「この町で四番目の実力者ですよ!」


これでも四番目か……さすが、上には上がいるとはよく言ったものだ。

ちなみにこの町のトップは町長で、魔力は5000台らしい。町長は若い頃凄腕の魔導士で、稼いだ金でこのガトスの町を開拓し、

町長兼領主として自分の町を創り上げたそうだ。ちなみに若い頃は魔力は7000台あったそうだ。彼が言っているだけで本当かどうかは定かではない。

また、魔力7000というのは、シルビオ学長にも匹敵する魔力量でもある。

しかし、まだ好矢はシルビオ学長がどれほど強い魔導士なのか、全然知らなかった。


「ところで……トール・ヨシュア様。」


「なんだ?」


「エンテル様とはパーティは組まないのでしょうか?」


「パーティ?」


「冒険者パーティのことでございます。」ギルドの受付がパーティについて話し始める。


冒険者であれば誰でも申請出来て、パーティ証明書が貰えるらしい。

例えば、パーティリーダーがそのパーティ証明書を宿屋に見せて宿泊することで、割引が受けられたりするらしく、

メリットが多かった。デメリットは報酬が山分けとなる……ということだった。

元々報酬を山分けしていたので、そのスタンスを崩さなければパーティのメリットのみを受けられてお得ですよ!とのことだ。


ちなみに二人以上でパーティが組めて、申請料は一人加入するごとに1000コインかかるそうだ。

好矢はエンテルの分の1000コインを払って、エンテルとパーティを組むことになった。


「……はい、パーティ申請の手続きを行います。パーティ名を書いて下さい。」


「パーティ名??」

……一切考えてなかった……。

すると、エンテルが絵を描いて「こんなのがいい!」と言ってきた。

その絵は、歪んだ満月の絵だった。しばらくその絵を注視する……そしてそれが何なのか理解出来た好矢は申請書にパーティ名を書いた。


皺月しゅうげつの輝き”


皺月というのは、水面に映る月のことで、月のしわと書いて皺月しゅうげつらしい。

エンテルは中々のセンスを持った子のようだ。ゴブリンの洞窟で生活していた頃、夜時々洞窟を抜け出して皺月を眺めて楽しんでいたそうだ。



皺月の輝きの一行は、一旦家に帰り一通り準備をした後でエンテルと二人でガトスの町のレストランで食事をすることにした。

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