第三十九話◆調合実験

今日は5月20日。一人でバルトロ森林にいる。

ゴブリンの洞窟へ遊びに行くためだ。


外出許可証をもらってから、2日に1度のペースでエンテルに会いに行っている。

エンテルに言葉を教えてあげているのだ。


外出許可証をもらって初めてエンテルに会いに行った時、「こんにちは」「ありがとう」の二つだけ話せるようになっていてビックリした。


――――ゴブリンの洞窟。


「よひや!よひや!」洞窟の入口でエンテルがぴょんぴょん跳ねながら呼んでいる。


「よひやじゃなくて、よしや だよ。」

よしや と教えても、中々よしやと呼んでくれない。し が発音できないのか……?と思っていた。


「じゃあ、今日は一緒に青いリンゴ採りに行こうか。」と、エンテルに言う。


エンテルはお母さんに話してくるそうで、巣へ戻って行った。

エンテルの両親も、好矢、ソフィナ、ガブリエルには心を開いており、特にエンテルをかわいがっている好矢には、いつも挨拶をしてくれる。

「わふふぅ。」と言って、お辞儀をしてくるのだ。これがゴブリン族の挨拶らしい。


青いリンゴを集めている最中、真っ白な草や真っ赤な草を発見し、それらも回収した。

何をしているのか?と聞かれると、好矢はカバンからポーションを取り出した。

エンテルは自分の怪我を治したポーションには見覚えがあった。


「この草を使って、これを作ることが出来るんだ。」好矢はそう言った。


あえて地面に書かずに、ジェスチャーを交えてゆっくりと話してやった。

エンテルが人間の言葉を学びたいというので、わざとそうしているのだ。


青いリンゴを二人で15個集めて、ゴブリンの洞窟へ向かう。

ゴブリンギルドのゴブリンも、好矢のことは知っているので、筆談で会話をする。


「いらいの こすうは 15こ ふたりで 30こ ひつようだ」と紙に書かれた。

「おれのぶんは エンテルがあつめたぶんで おれは このいらいを うけていない ということにしてくれ」と書くと、

そのゴブリンは頷いて、エンテルの分の生活資材と食料を渡した。


「よひや、いる?」と言って、ゴブリンの文様が入ったペンを差し出してきた。万年筆のようなもので、中にインクが入っている。

ゴブリンから渡された生活資材の一つで、巣にまだ何本かあるらしい。


エンテルから初めてもらったプレゼントなので、ありがたくもらうことにした。

「ありがとう、エンテル。」と言って頭を撫でてやった。


ギュッと目を瞑って、気持ちよさそうにしているエンテル。


「じゃあ、俺はそろそろ帰ろうかな。みんなに心配かけるし。」


そう言って、エンテルと別れ洞窟を後にした。


放課後にこっちへ来て、一日一緒にいたので、辺りはもう暗くなっていた。


「よし、草むしりしながら帰るか。」


好矢は足元の草を注意深くみながら、足早に帰路へつく。

どこにでも生えているような緑色の草は、もう大量に集めてあったのだが、赤や白の草は無かったので、集めたかった。

今まで見たことのない、青いリンゴのように真っ青な草が数は少ないもののあったので、ある程度は残して少し採ってきた。



――――ソフィナの家。

好矢は借りている部屋の机に草を並べた。


持っている草は緑の普通の雑草が25個、雑草だと思って採ったら薬草だったものが12個、白い草が16個、赤い草が13個、青い草が9個あった。

まずは、雑草を使って、日課のポーションを作ってみる。


基本的に魔力回復ポーションは雑草から作っているのだ。

(植物魔法……栄養素操作……魔力注入……魔力10使用。)「ほいっ!」

植物魔法で雑草の栄養素を操作した。一瞬白く光って、元の状態に戻る。

このようにして、栄養素操作した雑草を5個用意し、同じ方法で魔力5使用した赤い草を1個用意した。

そして植物魔法で作っておいた木のボウルに全ての草入れ、同じく植物魔法で作ったすり鉢ですり潰す。


そこへ、水魔法で純水を創り出し、少しずつ溶かしていく。

十分な量溶かした後、安い布で絞って、瓶に入れていく。


すると、赤みがかった緑色の液体が出来上がる。これが魔力を回復させるポーション。


「これの作成も挑戦してみるか……?」そう言って目をやったのが、以前作ったとんでもないポーション。

もう何を使って作ったかすら覚えていないこのポーション。色は赤紫色なので赤い草と青い草を使ったように感じるが、

今まで青い草を見たことが無かったので、別の色の草を使って作ったのだろう。


試しに、雑草、薬草、白い草、赤い草をそれぞれ青い草と混ぜてみることにした。


雑草と青い草では、白味がかった液体が出来上がった。効果が分からないので飲むに飲めない。

魔力回復させるポーションは疲労感がある時に良い香りに感じ、さらに身体が欲している味がしたので、我慢できずに一気に飲み干すと偶然魔力が回復した。

ちなみに、とんでもない効果のポーションは、見た目が怪しい感じがするだけで、好矢はこのポーションがどんなものか全く解っていなかった。


薬草と青い草では、体力回復ポーションが出来た。以前作っていた体力回復ポーションは、薬草、赤、白が全て必要だったが、

同じ量もしくはそれ以上の体力回復量を備えた上に、薬草と青い草一個ずつのコストもそれほどかからないポーションが出来た。


白い草と青い草だと、水色の液体が、赤い草と青い草だと紫色の液体が出来た。

そして好矢は、紫色の液体には見覚えがあった。


薬草5個、雑草10個を魔力を10ずつ込めてすり潰してかなり少量の純水で溶かしてペースト状のようにした後に、

赤い草を魔力込めたものを3つ、込めていないものを3つ入れてすり潰し、ここで純水を追加して液体を作ると、紫色っぽくなる。

それを絞ると透き通るような紫色のポーションが出来たのだ。

これはノートにも造り方を記してある。しかし、先ほど作った、赤と青の草を混ぜたポーションは色合いが全く同じで匂いもあまり違いが感じられない。

ちなみにこれらの紫色の液体は万治ポーション。身体に不調があるとき、半分飲み残りを患部にかけることで一瞬にして症状が治まる薬だ。

偶然出来た赤紫色の液体とは別のものだった。これに気付くのは、完成してしばらく経った後だった。



好矢は翌日に薬師教官に質問すべく、とりあえずノートにまとめることにした。

ちなみに、どんな方法で作っているかはバレたくないので、材料だけ明記した。


・雑草×5+赤い草×1= 魔力回復ポーション(赤みがかった緑色)

・薬草×5+赤い草×5+白い草×5= 体力回復ポーション(透き通った青色)

・薬草×1+青い草×1= 体力回復ポーション?(透き通った青色)←おそらく同じ

・薬草×5+雑草×10→赤い草×3+赤い草×3= 万治ポーション(透き通った紫色)

・赤い草×1+青い草×1= 万治ポーション?(透き通った紫色)←おそらく同じ

・雑草×1+青い草×1= 不明(白味がかった液体)

・白い草×1+青い草×1= 不明(水色の液体)


このようにノートにまとめておいた。


――翌日16時頃―トーミヨ薬学室。


「教官、俺が作ったポーション見てもらっても良いですか?」好矢は薬師教官の作業が一段落したところで声を掛けた。


「あら、どうしたの?ヨシュアくん。」

振り返って好矢を確認すると、かけていたメガネを外し、レンズを拭き始めた。

薬師教官の名前は、レイラ・レヴァイン。黒髪のボブヘアにしており、赤縁メガネを掛けている女性教官だ。年齢は26歳。

元々トーミヨの薬学部を首席で卒業した、かなり頭の良い教官で、その腕を買われてそのままトーミヨで働くことになった。


好矢は青い草で作ったポーションを全て出した。その種類は四本。

薬草と合わせた、体力回復ポーションにソックリのもの。赤い草と合わせた、万治ポーションにソックリのもの。

雑草と合わせた、白みがかった液体。白い草と合わせた、水色の液体。


以上の四本だった。


一つ一つ、スポイトで何滴か取り出して、色が変わるリトマス紙のようなものに垂らして、確認している。


「これは、体力回復ポーションと万治ポーションね。三学年で万治ポーションまで完成させるなんてすごいじゃない!私でも三学年の後期でようやく発見したのに!」

まず先に結果が大体把握出来ていた二本の鑑定が終わる。

少し悔しそうなものの、若い優秀な学生が台頭してきて嬉しそうでもあった。複雑な心境なのだろう。


続いて残りの二本を確認していると……


「んんっ!?何コレッ!?」教官が急に大きな声を出した。どうやらポーションの正体に驚いているようだ。


またやってしまった…………。




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