第三十二話◆ミス・トーミヨ
「すまなかったな。変な勘繰りをしていたようだ。」食事中、父親は突然言いだす。
「いえ……仕方のないことだと思います。父親として、やはり娘さんが大切なのでしょうね。」と返した。
「あぁ。だからヨシュアくん。キミがウチの娘とどちらかと交際したいという場合は言いなさい。しっかりと話し合ってやろう。」
「あ、ありがとうございます。」
今は特に何も考えてなかったので、無難な返事をしておく。
確かにソフィナと交際したら楽しそうだし、学内では付き合ってるのでは?という噂があることは知っているが、あえてそれに関してはノーコメントを通している。
何故、ソフィナもノーコメントで通しているのか分からないが、彼女なりの理由があるのだろう。
正直ソフィナもアンナも、女性としての魅力は十二分にあるような女性で、前の世界にいたら、多くの男性から求愛されていたことだろう。
それを凌駕するのが、アデラだ。知り合って初日で気持ち悪いとか思われたくなかったので、平静を装っていたが、アデラは本当にかわいい。ロサリオが執心するのも頷ける。
「ミス・トーミヨか……」そんなことを考えていた好矢が呟く。
「なぁ、好矢くん。誰に投票するのか決めてあるのか……?」ソフィナが窺う。
「いや……投票式ってことも知らなかったよ。」と好矢。
「なに、心配することはない!ヨシュアくんはきっと、アンナかソフィナを投票するに決まっている!!」父親はハッキリと言った。
そんな父親をスルーして、ソフィナに尋ねる。
「ミス・トーミヨの判断基準とかってどうなってるんだ?」
「ミス・トーミヨでは、女性が衣装を着てステージに集まる。まずは男性がそこで、特に衣装が似合っててかわいい、もしくは美しいと思った女性の名前を書いて投票する。」
ソフィナが答えた。
「なるほど……もしも名前が分からない学生がいたらどうするんだ?」
「……ステージ上で一人ひとりが自己紹介をするから名前は問題ない。当然、その時の話し方、仕草でも投票に関わってくる。」
「それと、まずは学年ごとに予選を行って、学年優勝を二人ずつ出して、最後に全学年の合計十人で決勝を行う。」アンナが説明を付け足した。
「へぇ……」
好矢は正直あまり興味はなかったが、女子学生たちはミス・トーミヨの為に頑張っていることをソフィナを見て知っていたので、みんなを応援しようと思った。
――12月25日―ミス・トーミヨ当日。
模擬戦で実戦教官をやっていた教官が、ステージの上で司会をやっていた。
「……只今の日時、12月25日18時!国立魔導学校トーミヨの年末最後の大型イベント!!卒業式 with ミス・トーミヨの始まりでーーーすッ!!」
「教官、メッチャテンション高いな……。」
観客席に座っているガブリエルが言う。
「さぁ、世界でも美女揃いと名高い、ここトーミヨのトップに輝くのは一体誰なのか!?女性陣の入場ですッ!!」
ワアァァァァァーーーー!!
いいぞー!アデラちゃぁぁぁぁぁん!!あの子ちょーかわいーぜぇぇぇっ!!
飢えた野獣のような眼で女子学生たちに声援を浴びせる男子学生たち……。
それを見ていて、ガブリエルは、ああはなりたくないな……と思っていた。
「おまたせ。ってか、ミス・トーミヨが卒業式だなんて聞いてないぞ!?」
ソフィナの着付けを終えてきた好矢が、ガブリエルがとっておいた席へついて言った。
「トーミヨでは……というより、魔導学校では普通のことなんだよ。逆に静かに儀式なんてやって何が楽しいんだろうな?」と当然の顔をして答えるガブリエル。
「……あっ、ほら、アデラが出てきたぜ!」
そこを指差すガブリエル。
アデラは薄い水色のU首のシャツの上に白いもこもこの上着。下には真っ黒で腰に黒いリボンがついたフリルスカートを穿いている。そんな衣装を完全に着こなしていた。
「か…かわいい……」
そんなアデラを見て、思わず声に出してしまう好矢。横から視線を感じてハッとする。
ガブリエルがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「な、なんだよ……」
「お前、初めて女の子にかわいいって言ったな。」ニヤニヤしながらガブリエルは言う。
おぉっ!?なんだアレはっ!?学生達の声が聞こえ、視線をステージに戻す。すると、着物を着たソフィナが、恥ずかしそうに歩いて、ステージ上に上がる。
女性陣はアデラの隣にはあまり並びたがらない。どうしても見比べられてしまうからだ。
しかし、ソフィナだけは着物姿でアデラの隣に並んでみせた。そして手を前で重ね、背筋を伸ばしてスラリと立っていた。
おぉぉ……という男性陣の声。
キッとそんなソフィナを睨むアデラ。なんだかんだアデラもミス・トーミヨを楽しみにしていたのでは?と思った。
そこへエリシアが出てきて、ソフィナとは反対側のアデラの隣へ並ぶ。
エリシアは、紺色の、肩とスカート部分にフリルの付いたワンピース、その上から白いカーディガン、黒のパンプスを穿いて、大人な女性を醸し出していた。
エリシアの顔の造形から、癒し系お姉さんのような印象を感じた。実際は結構激しい性格なので、あくまで見た目だけだが。
他の女性達も十分綺麗だが、ミス・トーミヨの二学年の部はもう勝敗が決したように見えた。
アデラを中心に、ソフィナ、エリシアの三人がとても美しいのだ。しかも、それぞれタイプが違ったかわいさ、美しさを持っている。
そして自己紹介は、彼女たちの番になる。
「こんばんは、二学年のエリシアと申します。この衣装のコンセプトは大人の女性です。素敵な皆様に見てもらえるように、頑張って衣装を選びました。いかがでしょうか?」
いつもとは正反対な、柔らかい話し方で大人の女性を演じるエリシア。
「……発動!」
エリシアはそのまま右手を挙げて、雷魔法を使う。すると、白いカーディガンが小さくパチパチッと音を立てながらキラキラと光を発する。
美しい天使を見ているようだった。
――そして次はアデラ。
「こんばんは、アデラですっ!この衣装のコンセプトは氷の妖精です。今年からはちゃんと頑張ってみることにしました!この衣装、どう?」クルッと回るアデラ。
氷魔法で白い霧を創り出し、かわいさがミステリアスに隠れる様子を演出した。
アデラは自分の見せ方まで知っているようだった。
そして最後は――
「こんばんは。二学年学生長、ソフィナ・ヨエルです。コンセプトは
他の学生は肌を見せているのに、ソフィナだけはしっかりと隠している。他の学生との衣装の差にグッとくる学生が多かったようだ。
ソフィナの自己紹介で全員の自己紹介が終わると、男性陣は投票箱に名前を書いて投票していく。
ガブリエルと好矢は揃ってソフィナの名前を書いて投票箱に入れた。投票は匿名なので、お互いは誰に投票したかは把握していないが……。
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教官たちが投票箱を開けて、開票を始める。
こうして、ミス・トーミヨ二学年の部は終わりを迎える。
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