【無料試し読み】結城光流『その冥がりに、華の咲く 陰陽師・安倍晴明』
KADOKAWA文芸
第一章_1
夢を、見る。
この
一
冥がりを呼ぶ禍だ。
この禍が華を呼ぶ。
かの冥がりを。かの華を。
あれは
闇を
堕ちれば華に
嗚呼、禍だ。禍だ。
人にも
お前こそが、禍だ。
◇ ◇ ◇
平安の都は、夜ともなれば
そんな、月も星も見えない夜の都大路を、ひとりの青年が静かに歩いていた。
松明も
ころころと転がった石は、やがて何かにぶつかったのか、急に止まった。
暗闇の中に、闇より黒い小さな
青年は足を止めた。
止まった石を
青年の足に小石が当たる。
きゃらきゃらと
「……まったく」
青年は
あちこちに、小さな影がある。
そしてその向こうに、それより大きな影が、ちらちらと
歩き出そうとした彼の、
「おい、
見下ろせば、土から
「なにやら都のあちこちが
土中にひそんだままだったそれが、魚が
小さな水干をまとったそれは、首から上が
守宮は土からあがると、水干の
「騒ぎを
青年は
「どうして私が」
「お前のせいだからよ」
大きな目をきょろりとさせて、守宮は青年の背後を
「お前のせいだし、お前の周りにいる
青年は守宮につられたように、自分の周りに
さわりと動くそれらは、決して
そうして守宮は、
「この百年近く静かだった都の冥がりに、お前が禍を落とし込んだ」
水面に石を落とせば、大きな
「禍……?」
「絶えず
そして、あの
ずっと冥がりの底に沈んで、静かに
「我らの静けき冥がりを乱すな」
「お前の落とした禍だ。鎮めるのはお前の役目だろう、安倍晴明」
うっそりと言い放ち、守宮はついと足を引くと、音もなく土の中に沈み込んだ。
灯りひとつない夜闇のなかで、青年はうんざりしたように息をつくと、再び歩き出した。
彼の名は、
師である
だが晴明は、役職につくことを望んではいなかった。
安倍氏は古い
晴明にはずば
陰陽寮だけでなく、大内裏に勤める貴族たちはみな、その理由を知っている。
安倍晴明は、
宮中の貴族たちは、常に彼を恐れている。
人というのは異質なものを恐れるから、それは本能だ。恐れない者のほうが稀であり、徒人に恐れられ
以前、光の
ちょうどそれを、たまさか通りすがった晴明本人に聞かれ、貴族は青を通り
晴明自身は内心うんざりしながらも、表面上は顔色ひとつ変えず、無言で一礼してその場を去った。
相手は晴明よりずっと身分の高い、
藤原
何かの
いずれにしても、それについて
人は、取り分け
知らないところで自分が
いまも晴明は、
一々説明する必要性を感じないので言われるままにしているが、陰陽寮で晴明と言葉を
そう、別に晴明は、妖の血筋ゆえに夜闇を見通せるわけではない。
彼は、夜闇を昼日中と同じように見通すための暗視の術を、己れにかけているだけなのである。
陰陽寮ではなんの役職にもついていない晴明だが、その異能の才を
そして貴族たちは、彼を恐れているが、完全に
なぜならば、その類稀なる
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