第16話 他人の後遺症
桜田未來は実家に向かう電車のなかにいた。
ここ最近は仕事にテスト勉強と多忙に多忙を極めていた。そのせいか、眠気が遅い、それに身を任せていた。急行で1時間半の道のりを普通で2時間かけて帰った。昔から電車に乗っている時間だけは妙に心が落ち着いていられた。
最寄り駅からは歩いた。
頭がぼーとして、ふわふわしていた。
玄関の扉の前にたったときには日が沈んでいた。堂々とした面持ちでたたずんでいる平屋の前で大きく息を吸い込んだ。母が泣き叫ぶ声が微かに聞こえる。
少し緊張した。扉を明け、境界線に踏み込んだ。
「お母さん、ただいま。」
呟くように言ったのにすぐに母はやって来た。
ーーーーーーーーパーン。乾いた音が響く。そして温もりを感じる。
「どれだけ心配したと思ってるの!」
「ごめんなさい。」
母は泣いていた。
私はいつものように母には顔を見えないようにして、母が落ち着くのを待っていた。
母が寝付くまでの数時間一緒にいた。
「寝付かれましたね。お茶をお入れしますね。」
「そうですね。須藤さん、ありがとうございます、頂きます。」
「敬語なんてやめてください。」
「私はもうここの家の人間ではないのに。」独り言。
「何かおっしゃいました?」きっと聞こえていた。本当に優しい。こんな小娘に優しくする必要ないのに。
「いえ 。」
須藤さんは桜來家に長年仕えているメイドさんだ。緑茶なのにバリくそ甘い。好きな味。コップいっぱいににじむ色。
「いつもお呼び立てしてしまって、申し訳ありません。もう私たちの手ではどうにも。」
「いえ、生んでくれた母なので当然の行為です。こちらこそ感謝しています。」
「今日は泊まっていかれないのですか。」
「はい。桜來の人間に見つかっては困りますので。」
桜來家の人間とはもう金輪際一切の会わないという契約が私にはある。
「その代わりというのは変な話なのですが、須藤さん、少しお願いがあるのですが。」
「なんなりと。」
「この方を調べていただきたいのです。」
「承知いたしました。」
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