ATLAS
じゃがいも
鉄のダインスレイヴ
Code-301 鋼鉄の記憶
メインシステム チェック開始
起動シーケンス、及び機体保存に問題なし
−−エラー、GPSシステムに応答なし、同機のシステムに異常なし、該当プロセスを停止
−−エラー、戦闘ログの破損を確認
−−該当データの修復は不可能と判断
−−戦闘ログの削除を開始
−−現在進行率23%
–−進行率43%
−−68%
−−100%
全システム、確認終了
システムに異常なし、ATLAS PP3、機能停止します
時折、どうしようもないほど苦しい夢を見る
夢は一貫性を持たない
夢は、姿を見せてくれはしない
ただ、やり直したいと切望する。
そんな後悔にも似た念を永劫に魂に焼き付けられる。
そして、俺は−−−−
声が響く、名前を呼ばれたような、いや呼ばれている、間違いない、これは起きたほうがいい−−−ッ!?
グシャリ、と人の頭からなってはいけない音が響く、あまりの痛みにまた意識を手放しそうになりながら、血の匂いがするシートから頭部を剥がしてその犯人を見据える。
「レーベン、ちょっと酷くないですかね?」
右手にビール缶を持ちながら、気の強そうな−−−いや、実際に強い−−− 女性が怒ったようにもう一度たたいてくる、痛みが走る、遠慮がない
「機体調整中に寝るような奴に遠慮などいるか?気にするな、怪我はしないように遠慮はした」
いやいやいや、周りのメカニックも引いてるし、そりゃないでしょ。
「准尉、血がでてますよ、血、わかります?」
そう言うと准尉は鼻で笑いながら
「ああ気にするな、それは私の血では無いのでな、それにしても珍しく紳士じゃないか、見直したぞハルート」
げぇ、と顔をしかめる
こんなに怒っている彼女は久し振りだ、昨日の夜も……一昨日だったか? 頭が痛くてどっちだったかわからないが、約束すっぽかして怒られた記憶がある。
「二日連続だ、馬鹿者が」
また叩かれる、痛すぎる、泣きっ面に蜂なんて諺もあるが、それは彼女のコードネームが『ホーネット』だからということは間違いないのだろう、きっとそうだ。
「断固抗議する」
「そんなことより自分の仕事をしてくれないか」
学生時代もやったようなやり取りを繰り返していると、周りの騒音の中から囁き声が聞こえてくる。
面白い、気がすむまで弄ってやろう
「はっはーん、成る程ね、レーちゃん」
「誰がレーちゃんだ、上官を尊敬すると言う軍人としての−−−−」
「そーんなに、俺のこと大好きなんだ?」
そう言うと、彼女の真っ赤な顔を最後に、俺の意識は飛んで行った。
「痛え」
白い天井が見える、療養室で間違いないだろう、此処には嫌なほど来ている。
「ハルート君、また此処に来てしまったのね……」
その声と共に、何処か儚げな声色を持つ女性がカーテンで区切られた、半ば個室と言ってもいいだろう空間に入ってくる。
「ああ、スイさん、また迷惑かけました」
僕がそう言うと、彼女は栗色の髪を揺らしながらそれを否定する
「ううん、良いの、これが私の仕事だし、レーちゃんだって悪いんだから、けど……」
言いたいことはわかっている、彼女は優しいから、同期のレーベン准尉に怒りづらいのだろう
「はは、大丈夫ですよ、僕も悪いですし、スイさんの腕も信頼してますから」
「そ、そんな大した事じゃないよ、私にできるのはこれだけ……」
照れるようにそう笑う。
それを見るだけで、俺はついからかってしまう。
「いつも助かってますよ、スイさん」
そうすると、彼女はいつものように顔を真っ赤にして目をそらす、やはりこの人はシャイだ。
「そ、それよりハルート君、今日は新型の納入日だよ、急いだ方がいいんじゃない?」
「あ!?、やっべえまた殴られる! スイさんありがとう!」
照れ隠しで出したような言葉に反応するようにベッドを飛び降りる。
「ちょっと、危ないよ……!」
「うん、わかってる、愛してるよー」
からかうように告げながら療養室を飛び出る、向かうは第三格納庫、軍の主力、人型戦闘機ATLASの搬入場所だ。
格納庫の扉を電子認証で開くと、すでに納入されたATLASとレーベン准尉の姿が見える
「遅いぞハルート…… まあいい、早く調整してくれ」
はいはい、と呟きながら新型の装備を眺める。
「高初速ライフルね、これじゃあ
計器を叩きながらそう言えば彼女はムッとして
「それは一対一の話だ、分隊以上での戦闘単位ならば、統一された装備の方が有利だろう」
「そうだな、まあまだ学生時代が抜けないんだろうよ
ほら、大雑把な調整は済んだぞ、乗って見てくれ」
こちらの要請に応え、ATLASのシートへ准尉が乗り込む。
全長3mほどの機体、そこの中央に存在するコクピットエリア、突き出たレバーを握れば横に開いていた防弾装甲が首だけを出すように彼女を覆う。
はずだった
「っ……!! おいハルート、胸がキツイんだが?」
あれ?と計器を見直す
データは二ヶ月前のパイロットデータをそのまま流用している、基本的にATLASのコクピットパーツは統一されているから、同じデータを入れれば、体の各部に取り付けられる固定器具がキツイなんてことはありえない。
何度計器を眺めても同じだ、核心に触れるしかない、と覚悟を決める
「うーん、同じデータ入れたんだけどなぁ、レーベン太った?」
突如
沈黙
轟音
計器の反対側、何も置いていなかった空間に突然に鋼の拳が打ち込まれる。
コンクリートの床がひび割れる、衝撃でケツが割れそうになる。
「だーっ!? ごめんごめん! 悪かったよ! 配慮が足りなかったっ! ……いや悪かったって! またなんかやってやるから! そうだ!酒でも奢ろう! つまみだって俺持ちでいい!」
ひたすら逃げ惑いながら叫び続ける。
その言葉にニヤリ、と彼女は笑い
「今日お前の部屋だ、覚えていろよ?」
と、悪魔のような笑いを浮かべた
「おっおまえっ……」
謀ったなァァァっ!!
と。格納庫に
空気の抜ける音と共に金髪の美女が入ってくる。
目元は強気な性格を写すように、唇は自信家にふさわしく。
誰が見ても美しい、もちろん彼女はモテる、しかし、どうしようもないほどの欠点がある。
だらしない、という但し書きが入るのだ。
そんな僕の評価も気にせず、彼女は僕の前になぜかあるイス−−−彼女が僕のベッドの前に持ってきた−−に座って、缶ビールを開栓する。
炭酸飲料特有の空気の抜ける音が響き、それと同時にあと何回聞くんだこれ、と気が滅入る。
「それじゃあ乾杯と行こうか」
彼女はニコニコしながら缶ビールを掲げ。
「はぁ……給料日が待ち遠しいな」
一方俺は吹っ飛んだ給料を眺めながらそれに乾杯する。
「それにしても、幾ら私だからとはいえ、言っていいことと悪いことがあるぞ」
酒を飲みながら彼女が拗ねる。
お前が誘導したんだろうが、と思いながら、彼女に勝てるはずもないので表面上は謝罪をする。
学生時代から俺とこいつのコンビはこんな感じだ、何か気に食わないことがあれば俺が奢るし、あいつも俺のことを都合のいい財布としか思ってないだろう。
「はいはい、悪かったよ」
悪びれもなく俺はいう、ダッテオレ、ワルクナイ。
全く、こうやってビールばっかり飲んでるから太るんだよ、とはいえない、今度は鋼ではなくても拳は飛んでくる、怖い、許して。
「まあ、お前と私の中だ、許す」
心底嬉しそうに、立派な胸を張りながら言う。
なんて傲慢だ、それでも我慢を続ける。
なんで縁を切らないか、といえば一つしかあるまい。
「なあ、レーベン」
少し酔いが回ってきたタイミングで、俺は言う。
彼女の目は、真剣に俺の目を射抜いている。
「なんだ、ハルート」
ああそうだとも、学生の頃から、ずっと思い続けた、今だって変わらない。
だから。
「好きだ」
いつだって、この言葉は君のためにある、けど。
「ああ、私もだ、と言いたいところだがな」
彼女は少し寂しそうに笑って、決まって言うのだ。
「そう言うのは、素面の時に頼みたい」
呆れたような、悲しいようなそんな顔をされると、ついわかった、と言いそうになる。
だめだ、それはできない
「無理だよ、それは」
俺はこの鋼鉄の世界での、大企業の息子、鋼の稼業、軍需企業メガロスの第二子、たぶん、他の企業の娘との駆け引きに使われるのだろう。
俺の命は、すでに俺のものじゃない。
けれど。
「……ああ」
そういえば、必ず彼女は顔を伏せるから。
ボクは、彼女の頬を撫でて。
「だから、頑張って」
俺は決まって、そう言うのだ。
−−−−−−−−−−−−−
Armed TransformabLe Assist Systems
ATLAS.
機動性、火力に優れるパワードスーツモードと、加速性に優れるエアリアルモードを可変する全長3メートルほどの
パイロットシートが鉄板二枚が横からせり出して守られる、という一見危うい構造だが、ELAにより保護されている
ELA
機体外部に展開される電磁装甲。
機体内部での演算により、周囲の空間に安定還流する電気粒子を生み出す。
弾丸の着弾など、流れを乱す状況下に晒されると徐々に減衰する
戦車の主砲一撃レベルならば威力の大幅な減衰を見込める。
ATLAS用のマシンガンならば一発一発は無効化できるが、ELAの安定を容易に乱せるため、高威力の武器と連射性の高い兵装を同時に持ち込むことが今日の基本戦術とされている。
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