換装少女

多田七究

第一章 邂逅

ロボットを操作し、1対1で戦う

 荒野を不規則ふきそくに動く、青いロボット。高速で、灰色のロボットと戦っている。

 人型。青い重戦車じゅうせんしゃのような見た目。

 大きなじゅうを撃っている左腕が、射撃を受け破壊された。操作している男は険しい口元を見せる。だが、すぐさま不敵ふてきに笑う。

 左肩に装備そうびされた、小型の三連砲さんれんほうが火をいた。灰色の相手近くで爆発ばくはつ

 板のような装甲そうこうまとう細身のロボットが、一瞬見えなくなる。

 男が、追撃をかけようと右手でビームナイフを構えた瞬間、ロボットの腕が破壊された。

 ビームが飛んできた場所に向かって左腕を構え、換装かんそうの準備に入る。攻撃可能になるまであとすこし。間に合わない。

 灰色の相手が、背中から取り出した大きなけんを横に振るう。爆発ばくはつする青いロボット。

 けんを使ったロボットは腕を組む。

 操作していた少女は、邪悪じゃあくな笑みを浮かべていた。

「もっと楽しませてくれよ」


 生命せいめいが生まれ、進化してきた惑星わくせい

 恒星こうせいからの位置が絶妙ぜつみょうで、衛星えいせいが大きいためしおの満ち引きが大きい。

 奇跡的きせきてき環境かんきょうが、多様たようしゅはぐくんできた。

 その環境かんきょうを当たり前のものとする人類は、娯楽ごらくを多様化させた。見えない暗雲あんうんが立ち込めることも知らずに。

 ロボットのプラモデルや、対戦がメインのビデオゲーム、レトロファイト本日発売。という宣伝せんでんが映像として流れてくる。TV(テレビジョン)から。

 台所。慌てて朝食を食べた小柄こがらな学生が、荷物を持ち玄関げんかんに移動する。家の中は木の断面だんめんが多く見える。よごれは見当たらない。

 少女は、白いマスクをつけ外へ出た。白を基調きちょうとした上着に黒いスカート。

 西に一戸建いっこだてが立ち並ぶ。北西から南東へ延びる広い道には、同じ制服姿せいふくすがたの学生が多く見える。

 桜の季節きせつはすこし前に終わっていた。

 大通りを挟んで北東には、道に沿って緑色の公園が続いている。さらに先には海。

 付近の学生たちは、舗装ほそうされた大通りの南東方向へ向かう。途中で、右手にある道を曲がり進んでいく。

 レンガ造りの大きな門を抜ける、少年少女たち。

 白い建物を目指している。三階建ての大きな建物たてものが二つ。十代前半の少年少女たちは、左側に向かう。

 緑色のフェンスが、中と住宅街とを分ける。門の近くには、山上学園やまがみがくえんと書かれた看板。生徒たちが挨拶あいさつわしている。

 長い黒髪をなびかせたマスク姿の女子生徒が、するどい目つきをのぞかせる。無言で門の中に入っていった。

 第二金曜日だいにきんようび

 鉄筋てっきんコンクリートづくりの建物たてもの。床には木の板が敷き詰められている。廊下に誰もいない代わりに、広い部屋に人が集まる。

 部屋の西側に立つのは若い女性。前の壁にある大きな黒板こくばんに、文字が書かれていく。

 教室には机が等間隔とうかんかくに並ぶ。20人の生徒が、椅子に座って前を向いている。上が白、下が黒の制服姿せいふくすがた

 机は、骨組みが金属きんぞくで上が木。真新しい紙の教科書とノートが広げられ、文字が書かれていく。

「ではここを、ケイ……さんは体調が悪そうだから」

 長い髪の少女は、名前を呼ばれて露骨ろこつに嫌そうな顔をした。

 悲しそうな顔になる、若い女性教師。

「サツキさん、読んでくれる?」

 指名したのは、隣の生徒。

 すぐに返事をして立ち上がる。一番うしろの廊下側だ。

 一階の一組に、可愛らしい声が響いた。


 授業じゅぎょうが終わり、休憩時間きゅうけいじかんを知らせるチャイムが鳴る。

起立きりつれい

『ありがとうございました』

 号令係ごうれいがかり合図あいず一斉いっせいこたえる生徒たち。

 私語ですこしさわがしくなる教室の中、先生が声を張り上げる。

「次は、体育館に集まってください」

 そして、ケイに近付いて頭を下げつつ、気持ちをこめる。

「さっきは、ごめんなさい。身体からだが弱いのを、ど忘れしていて」

「分かってるなら、いいです。それじゃ」

 表情を変えずに淡々たんたんと話して、教室をあとにした十代前半の少女。

 その姿を見ている先生。

「コノハナ先生、またね」

「ええ。またね」

 別の生徒から声が飛んできて、微笑みを返した。

 まだ、ケイの後ろ姿を見ていた女性。肩を落として呟く。

「嫌われちゃったかな」

 生徒たちが体操服に着替えて、保健体育の時間。

 体育館の床は木で、ワックスがかかっている。建物自体たてものじたい鉄筋てっきんコンクリートづくりで、200人以上は入れる広さ。

 天井は高い。外に向けてふくらんでいるような形で、たくさんの照明が規則的きそくてきに並んでいる。

 20人の生徒たちは整列せいれつしていた。

 授業をおこなうのは、別の先生だった。科目ごとに別の先生が担当しているためだ。

 穏やかな授業を始める、体つきのいい二十代の男性。

 体つくり運動がおこなわれる。手軽な運動。体の柔らかさや、動きを持続じぞくする能力を高めるための運動が続く。

 呼吸器こきゅうきの弱いケイは、泣き言を言わずに平均以上の動きを見せる。大丈夫かと聞くクラスメイトに返答。

「問題ない」

 保健体育が終わる。

 午前の授業じゅぎょうと、昼食と、午後の授業じゅぎょうも終わった。

 一番後ろの席に座る生徒が、マスクをつける。誰にも話しかけなかった。話しかけられそうになっていたことにも、気づかなかった。かばんを手に教室から出ていく。

 すぐに帰宅したケイ。

 フローリングの家で、母親に弁当の空箱を渡す。

 飾り気のない自室に戻ると、ゲーム機の電源を入れた。


 ラフな服に着替えた、長い黒髪の少女。

 部屋の左奥にあるTVをつける。

 思い出したように、入り口近くの空気清浄機くうきせいじょうきをつけた。縦長で白い。

 すこし歩き、右奥の机の側にある椅子に座る。近くにあるベッドには飾り気がない。

 あらかじめダウンロード購入しておいたソフトを起動。レトロファイトの一人用モードを、説明書も読まずにプレイし始める。

 対戦型たいせんがたスリーディーロボットアクション。

 ゲーム内で、音声ガイドが流れる。

『ロボットを操作し、1対1で戦う。HP(エイチピー)がなくなると負け。2本先取』

 ケイがすぐに相手を撃破げきは

『右腕、左腕には個別に耐久値たいきゅうちがある。ゼロになると破壊はかいされ、腕を使う武器ぶきが使用不可になる』

 自動で自機じきの片腕が壊れ、使えなくなる武器ぶき

武器ぶきにはそれぞれ射程しゃていがある。強力なものほど、予備動作よびどうさやクールタイムが長い』

 たくさんのまとが現れた。移動できない。

低威力ていいりょく実弾じつだんほかに、安定した圧縮あっしゅくエネルギーだんと、高威力こういりょく燃費ねんぴの悪いビームがある』

 まとが次々と破壊はかいされていった。

『手、肩、背中に武器ぶき装備可能そうびかのう複数ふくすう装備箇所そうびかしょを使う、強力なものもある』

 腕は、内蔵ないぞうたてじゅうなどが装備済そうびずみ。

 目的地までの移動を要求ようきゅうされる。あしで歩く。途中の雑魚敵ざこてきはすべて倒された。

『胴、腕、脚のパーツは、軽い順にライト、ミドル、ヘヴィのタイプに分類される。重いほど燃費ねんぴ運動性能うんどうせいのうが悪くなる。代わりに威力は上がる』

 ライトタイプで移動。敵が殲滅せんめつされていく。

 ミドル、ヘヴィと、ステージを変えて続いた。

『エネルギーを個別に消費するパーツ。脚でブーストを使い切っても、腕のエネルギーを供給きょうきゅうして再ブースト、ということが可能。ただし、100パーセント超えは不可』

 簡単な説明が流れるだけの画面。

『一番の特徴は換装かんそう。たとえ腕が破壊はかいされても、別のタイプにその場で換装かんそうすることができる』

 自動で換装かんそうがおこなわれた。

『ただし、一定時間待つ必要があり、再使用には時間がかかる。壊れていないときでも可能』

 敵ロボットがあっというに倒された。

 画面切り替えをはさんで、何体か登場した敵も全て倒される。すこし大きく頑丈がんじょうな敵も倒された。

「悪くないチュートリアルだった」

 一気にクリアしたケイは、満足そうに言った。

 コントローラーを操作して、電子説明書を読み始める。同じような体勢たいせいを続けて疲れたのか、読み進めながら身体からだを動かす。

 たまに変な声を出した。

 挑発ちょうはつすると、エネルギーの回復がすこし早くなる。だが、専用の操作をしたほうが早い。

 一人用モードクリアで入手できる装備もある。特別強いわけではない。むしろ玄人向くろうとむけ。

 という部分を読むときに、すこしがあった。


 木におおわれた、フローリングの台所。

 最大で六人食事のできる、木製のテーブルがある。近くに置いてある椅子は三つ。こちらも木製。二人が座っていた。

 お洒落しゃれなテーブルクロスに興味きょうみを示していない少女は、黙々もくもくと食べている。

 台所と居間いまは、開閉可能かいへいかのうな仕切り戸で区切られていた。

 朝見ていたTVは居間にある。照明がついていないため薄暗い。対照的たいしょうてきに、台所は柔らかい光に照らされている。

 夕食の席。心ここにあらずといった様子で、時々ぶつぶつと呟くケイ。

 三十代の母親は指摘してきしない。

「お父さん、もうすぐ帰ってくると思うから。先に、お風呂入ってくれる?」

「わかった」

 ケイは素直に返事をした。先に食べ終わると、すぐに風呂場へ向かう。

 脱衣所だついじょもフローリング。浴室よくしつでお湯はりをする。

 お風呂がくまで、身体からだを動かした。洗面所の鏡の前には行かなかった。

 30分後。

 パジャマ姿で髪をボサボサにしたまま、歯磨きをしつつ、台所に現れるケイ。

「暑い」

 また風呂場に戻った。

 髪をかわかして出てくると、ミネラルウォーターをすこし飲んだ。

 自室のドアが閉まる。たまに、ケイが何か言っている声が小さく聞こえた。父親が帰ってきて二階で寝たあとも、部屋の明かりはついていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る