第51話 法国


 抜けるような青空の下、街道を一台の馬車が走っていた。

 ゴトゴトと揺れる車内の中、青い顔をした少年が二人の少女に背中を摩られている。


「うぷ……気持ち悪い……」


「ちょ! 吐くなら外で吐いてよ?!」


「もう少しで休憩ですわよ。頑張ってください」


  アルデバラン王国から法国パナギアまでの移動手段として、リヒトたちは馬車を選択した。飛行船を使う手もあったのだが、もしも移動中何者かに襲われた場合、空の上だと色々と不利だ。

 そう考えて陸路を選んだのだが……



「あのリヒトがまさか馬車酔いするなんて意外ね」


「あら。人間味があっていいのでわなくて?」


「うぅ……まさか街道がこんなに揺れるなんて……」


 王国内と違って街道はそこまで舗装されておらず、馬車もサスペンションなんてものが付いているわけもなく、その結果


「あんた今までどうやって移動してたのよ?」


「まともに国外に出るのは初めてなんだよ……出た時も訓練がてら走ってたし……」


 ――気持ち悪いし、尻は痛いし、いつか絶対に改善してやる……

 そう心に決めるのであった。


 それから数時間後、日も傾いて来た頃にやっと馬車が停まった。


「ん~……長時間座ってたから身体がバキバキね」


「仕方ないですけど乗合馬車はやっぱり疲れますわね。座席も硬いですし」


「ロゼの家の馬車なら乗り心地も良かったのにね」


「家紋が入ってますし襲ってくれと言っているようなものですわ」


「確かにね。……で、あんた本当に大丈夫なの? この数時間一言も喋らないけど」


 フラフラとした足取りで馬車から降りてくるリヒトの顔を心配そうに覗き込むと


「ふ……ふふ……やっと着いたのか。もう二度と馬車なんて乗らない……」


「「ヒッ!」」


 ハイライトの消えた瞳に不気味な笑顔を貼り付けた姿にセシリアとロゼは二人同時に距離を取った。


 いまだブツブツと「まずはサスペンションを……いやいっそ車を造る手も……」などとよく解らない独り言を繰り返しているリヒトに恐る恐る近付くとロゼは


「あのー……リヒト? 言いにくいのですが……ここは宿場町であってパナギアにはまだまだ着かないですわよ?」


 愕然としたリヒトはロゼの止めの一言に、いまだ国境すら越えてない事実と、まだまだ馬車の旅が続く現実に崩れ落ちたのだった。




―――数日後―――

 

「わぁ! 凄いわね!」

「んー……さすがに遠かったですわね」

「……」

 王都アルデバランを出発して約一週間。三人は法国パナギアの中心地、法都パナギアに到着したのだった。

馬車から降りたセシリアは、はしゃぎながら周りを見渡し、ロゼは固まった身体を伸ばしている。最後に馬車から降りたリヒトはというと、もはや死んだ魚の様な目で下を向いている。


 アルデバランの王都は沢山の人が行き交う活気溢れる街だったが、ここ法都は白を基調とした整った街並みと、磨かれたような白い石畳で整備された道が荘厳な雰囲気を見るものに与えていた。


「ほらほらリヒト! いつまでもそんな顔だと神殿騎士に死霊だと思われるわよ」

 そうセシリアにバシバシと背中を叩かれると、やっと焦点が合ってきた


「い、痛いよセシリア。人をゾンビみたいに……神殿騎士?」

「あれですわ」

 ロゼが指差した先には、街の中心にそびえ立つ真っ白な城が目に入る。


「あれが教会の総本山にして法国の中枢。神殿騎士は法王と教えを守る騎士ですわ。」

 なるほど。と相槌を打っていると


「全員が聖属性の使い手らしいわよ。死霊とかは特に神の敵って考えらしいわ。神の敵って法王が認定すると滅するまで止まらないって噂よ」

 セシリアの説明に、あぁ中学の世界史で聞いたことあるあれだな、十字軍的なやつかなーと考えていると、遠くから鐘の音が聞こえてくる。


「っと。もう昼か。とりあえず学園に挨拶に行くのは明日だし、宿に荷物を置いて昼食にしようか?」

「やったー! おっひるっ。任せておいて!有名どころはリサーチ済みよ!」

「法国の香草は絶品ですわよ? 行きましょうリヒト」

「わ、わかったから! 二人ともそんなに引っ張るなよ!」


 笑いながら三人は歩き出すのだった。









――――あとがき――――


だいぶ更新に時間がかかりまして大変申し訳ございませんでした。

沢山のフォローやコメント、本当にありがとうございます。

ブラックな職場を離れ、やっと時間に余裕が出来たので更新スピードも上がる……よね?


新章に入り、彼らの活躍がどうなるのか、私のPCは保つのか、お楽しみ頂けましたら幸いです。

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