第39話 野外訓練④ お風呂タイム


 夕食を終えたリヒト達は焚き火を囲みながら一息ついていた


 

「あー美味しかった。セシリアの料理はやっぱり美味しいよ」

「そうですわね。あのセシリアにこんな一面があったなんて驚きですわ」

「ふ、ふん! 当然じゃない!」

「いつの間に料理なんて覚えたんですの?」

「……リヒトとお弁当食べたかったからよ……」

「? なんですの? 声が小さくて」

「なんでもないわよ! リヒト! あんたが一番食べたんだから洗い物くらいしなさいよ!」

 


 そう言うとセシリアは、そっぽを向いて焚き火を弄るのであった。



 魔法だけで器用に洗い物をこなすリヒトにロゼが驚いたり、セシリアが焚き火が小さいとゴネてあわや山火事になりそうになったり、


ワイワイと過ごしているうちにあっという間に辺りは闇に包まれていった。



「ふぁ……今何時かしら?」

「時計もないですし時間感覚がなくなりますわね」

「そろそろ休もうか。明日から本格的に野外実習が始まるんだし」

 

 リヒトの提案に欠伸交じりに伸びをしながら眼を擦る女性陣は



「そうね。寝る前に水浴びでもしたかったけど……この辺りに川なんてないわね」

「仕方ないですわよ。明日の野営地は水辺にしましょう」


 ――女の子って大変なんだな。某国民的アニメの女の子もいつも風呂に入ってた気がするし


 などとぼんやり考えながら口に出した言葉にまさかあんなに食いつかれるとは夢にも思わなかった。


「別にお風呂くらいならなんとかなるよ」

「「は?!」」

「うぇ?! いや……水浴びっていうかお風呂なら作れる……けど?」


 眼の色を変えて一斉に振り向かれて狼狽したリヒトが後ずさりながらも答えると、逃がすまいと肩を万力のような力で捕まれてしまっ



「是非作って「下さい!」よ!」

「痛い痛い痛い! わかった! わかったから離して!」


 リヒトの一言で就寝前の土木工事が始まってしまったのは自業自得であった。





 野営地から少し離れた森の中にウキウキした女性陣と肩をさするリヒトがいた。


「で? どうやって作るの?」

「文字通り材料は山ほどあるからね。二人にも少し手伝って貰うよ?」


 思いがけず風呂に入れると知ったセシリアとロゼは手伝いなんてお安い御用だとニコニコしている。


「じゃあセシリアは木を2,3本切ってきて。ロゼは僕の言ったとおりに魔法を展開してね」

「わかったわ!」

 そう言うとセシリアはバトルアックスを担いで森に入って行く



「まずは……このくらいかな?」

 リヒトがウィンドカッターで地面に2m×2mくらいの切れ込みを入れていく

「よし。 じゃあロゼはこの切れ込みの内側を重力魔法で凹ませてくれる? だいたい60cmくらいでいいから」

「わかりましたわ」



「終わりましたわ……なかなか疲れますわね」

「特訓だと思いなよ。あ、帰ってきた」

 森から木を担いだセシリアが出てくる


「よいしょっと。これでいい?」

「大丈夫だけど、セシリア……普通こんなの担げないよ」

「何よ?」

「何でもありません」



 ジロリと睨んでくる眼から逃げるようにリヒトは魔法で木を細長く板状に切っていく


「その板何に使うの? 薪とか?」

「違うよ。 あぁこっちの風呂は石造りが基本だもんね」

「こっち?」

 不思議そうにしているセシリアをよそに切り終わった板を穴に敷いていく


「んー。こんなもんかな。隙間は空気を圧縮すれば大丈夫かな?」

 ロゼの魔法をヒントに空気を圧縮していく


「よーし。じゃあお湯を出すか」

 魔法でお湯の玉を出すリヒトにロゼが驚きの声をあげた。


「魔法でお湯を作るなんて……並大抵のコントロールじゃないですわよ?」

「んー……慣れ?」

「いったいどんな訓練をしてきましたの……」

 なかば呆れたように声を漏らすのであった。




「さぁ出来たよ。やっぱり風呂は檜風呂だよな! 檜かどうか知らないけど!」

「あんた何でそんなにテンション上がってるのよ?」


 元日本人のリヒトとしては、やはり風呂にはこだわりがあったようだ。いつの間にか木の桶と風呂椅子まで作っている始末だ。


「アヒルも作りたかったんだけどな!」

「アヒル? あんた時々よくわかんないこと言うわよね」

「いいからいいから。 とりあえず入ってきなよ」

「嬉しいけど先に入らないの? あんたが作ったんじゃない」

「いいって。後でゆっくり浸かるからさ。 戻ってきたら声かけてよ」

「そう? じゃあお言葉に甘えて。ロゼー。先に入っていいってさ」


 セシリアとロゼはニコニコしながら服に手を掛け一気に服を脱ぎ下着になった瞬間、はたと気付いた様に振り返ると

「……リヒト?」

「ん? なに?」

 草むらからひょっこり顔を出して返事をするリヒトに 


「…………」

「…………あ」

「いつまでいるのよ!」

「ご、ゴメン! げふっ」

 セシリアが投げたバトルアックスがリヒトを吹っ飛ばしていった。


 

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