第38話 野外訓練③ 夕食と不穏な空気
リヒトが獲物の索敵から狩猟まで自分で行うようになってからはさくさくと事が進んだ。
「リヒトは本当に器用ですわね」
「ロゼこそ凄い魔力コントロールだよ」
獲物は全て眉間など急所をリヒトが風の弾丸で穿ち、逃げようとする獲物はロゼが魔力で足止めしていた。
今日が初めてとは思えない程の連携であった。
「あの足止めに使った魔法は何? 初めて見たよ」
「あれは
「
「簡単に言えば血統で使える強力な太古の魔法ですわ。まぁその血統でも使えない者のほうが遥かに多いですが……ちなみに私の
「へぇ。そうなんだ。なんかカッコイイ! 僕にも使えればいいのに」
「リヒトのご先祖に太古の血筋があるならいつか目覚めるかもしれませんわね」
「……なによ。リヒトったらあんなに楽しそうにして。そりゃ私は魔法は苦手よ。ガサツだし貴族っぽくないし……む、胸はこれから育つ……はず」
仲良く雑談しているリヒトとロゼを憎らしげに見ているセシリアは木の実や薬草採取の仕事が割り当てられていたのだった。
――夕食――
森の中の開けた場所に焚き火を作り野営地としたリヒト一行は採れた食材で夕食の準備を進めていた。
鼻歌を歌いながらトントントンと食材を切る音が響く中、リヒトは焚き火に掛けられた鍋を掻き回しながら楽しそうに料理をする少女に声を掛ける
「セシリアって意外と料理上手だよね」
「意外って何よ? 私が何も出来ないみたいじゃない」
セシリアは眉を吊り上げながらもどこか嬉しそうだ
ちなみにロゼは料理はそんなに得意じゃないらしい。旧家のお嬢様だから包丁を握ることも少なかったのかもしれない。
「いや。いいお嫁さんになりそうだと思ってさ」
「な!? ななな何言ってるのよ! わわ私がおおお嫁さんなんて! 痛っ!!」
真っ赤な顔で慌てふためいたセシリアは手元が狂って指を切ってしまったようだ
「ご、ごめん! 僕が余計な事を言ったから……ちょっと見せて?」
「こ、このくらい大丈夫よ。」
「だめだよ。 菌が入って化膿したら大変だよ」
余計に真っ赤になったセシリアの手を取ると水魔法で洗い流すと風魔法で乾かす。
――このぐらいの傷なら大丈夫だと思うけど……試してみるか
掌に魔力を篭めて傷を覆うと肉芽細胞と繊維芽細胞を活性化させるイメージを浮かべる
――他人の身体をコントロールするのはやっぱり難しいな……要練習だな
リヒトが手を離すと傷は大分塞がっている。
「あ、ありがとう。……治癒魔法まで使えるのね」
「初めて試してみたから上手くいったかどうか解らないけど。念のためこれを巻いておくよ」
そう言うとリヒトはポケットからハンカチを取り出し綺麗に切り裂くと手馴れた手つきで包帯のように巻いていく
「そ、そこまでしなくていいわよ!」
「女の子に傷が残ったら大変でしょ?」
「う……」
「水を汲んで来ましたわよー。? セシリア? 何かあったんですの?」
「な、何でもない!」
戻ってきたロゼの訝しげな声に、セシリアは慌ててリヒトから手を振りほどくと今にも火が出そうなほど真っ赤な顔を背けるのだった。
――同時刻、山中奥――
「ククク。パイシーズめ……生きて山から出られると思うなよ……」
「おい……本当にやる気かよ」
「当たり前だ! 大勢の前であそこまでコケにされたんだ! どんな手を使っても殺す!」
「相手は12宮爵の上にあの強さだぞ?」
「なんとでもなるさ! お父様は俺には甘いんだ。泣いて頼んだら一発さ」
暗い光を眼に宿した男……ギルが振り返ると、そこには学院の実習には似付かない漆黒のローブを頭から被った異様な雰囲気の男。
「おい! しくじるなよ!」
「……依頼とあらば子供でも容赦しないさ……」
「とどめは俺にささせろよ! 生きているならどんな状態でも構わん」
「……了解した……」
そう言うと黒ローブの男は闇へと溶けて行ってしまった。
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