第22話 山中の戦い決着
「グァァァ!」
「いい加減ワンパターンなんだよ!」
大振りのの攻撃を難なくかわしてリヒトは距離を取った。
……ダメージはそこそこ入ってるはずだ。でも疲れる素振りすら見せないなんてタフなやつだ。
「でもそろそろ終わりにしようか! 母さん達が待ってるんでな!」
掌に炎を生み出し風魔法で打ち出すとグランデグリズリーの顔面に命中する。
「ギャウゥゥ」
炎を消そうとするグランデグリズリーに一気に近づき魔力を籠めたナイフを一閃させた。
「チッ。浅かった。でもこれでお前は何も見えないだろ。」
リヒトが振るったナイフは魔物の両目を切り裂いていた。
「グルルル……」
しかし当の魔物は逃げるでもなく静かにしている。
「なんだ……?」
その不気味さに一瞬リヒトの動きが止まる。
「ガァァァ!!!」
グランデグリズリーが吼えたかと思うと、その身体は一回り近く大きくなっていた。
「なるほど。魔力で筋肉を倍増させたのか。本気ってわけだな」
ブオンという音と共に腕が叩きつけられると風圧で周りの木々がなぎ倒されてしまった。
……これは俺も出し惜しみしている場合じゃないな。
「ノア! 傷の具合は?」
「大丈夫です! なんとか動けるくらいまでは回復しました!」
「よし。なら離れててくれ! 巻き添えをくらうぞ!」
「リヒトさま?!」
イメージするのは風。それも鋭い切れ味のカマイタチ。
……まだだ。こんなんじゃあいつの肉には届かないっ!
リヒトの両手に膨大な魔力が集まってくる。
「俺は風魔法が一番得意でね。転生した時初めて目にした魔法が風だった。」
そう言いながら目を閉じ母さんの魔法を思い浮かべる
「だから俺は風魔法が一番好きなんだ!」
その叫びに反応するように指先の指輪にエメラルドグリーンの光が灯る。
「ぶっ飛べ! 大いなる風の暴威テンペスト!」
普通詠唱とはイメージを補佐するものだ。普段イメージだけで魔法を放っているリヒトが詠唱、それもオリジナルの言語で唱えるとどうなるか。
その瞬間リヒトの両手から膨大な魔力が荒れ狂いカマイタチの竜巻を生み出し魔物に襲い掛かる。
「グガァァァ!」
魔物の叫び声すら切り刻み竜巻が赤く染まっていく。
「す……凄い……あそこまでの魔法を使うなんて……」
女神のノアまでもが絶句するその威力はかなりのものだったらしい。
竜巻が消えた後に残ったのは削られた台地と切り刻まれたバラバラになったグランデグリズリーの身体だけだった。
「くっ……」
ヨロヨロと膝をつくリヒトにノアが駆け寄る。
「リヒト様!」
「大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけ。」
魔力を使い果たしたのだろう強がってはいるが今にも倒れそうだ。
「まさかあの魔物を一人で倒してしまうなんて。少しお休みください。騒ぎを聞きつけてじきに騎士団も来るでしょう」
そう言って頭を撫でるノアに身体を預けた瞬間
「グルァァァ!!!」
背後から咆哮が響いた。
さっきのグランデグリズリーより二周りほど小さいが同種の魔物のようだ
「くそっ。もう一体いたなんて。」
親子だったのだろうか。怒りに満ちた目でこちらを見ている
目が合った瞬間、リヒトとノアに爪を振りかざしながら飛び掛ってくる。
……くそっ。もうガス欠だ……せめて一太刀だけでも……
ヨロヨロと立ち上がり残った力でナイフを握り締める
グランデグリズリーの爪がリヒトに届こうとした瞬間、耳元に慣れ親しんだ声が響いた
「よくがんばったな。リヒト」
背後から疾風のようにリヒトの横を影が駆け抜けると声の主は二本の剣を一閃させた。
「バケモノが。うちの息子に手を出しやがって。」
……目で追うのがやっとだった。
気付けば魔物は上半身と下半身に別けられ倒れ伏している
チンッと剣を収めると影……カイルは息子を抱きしめながら
「遅くなってすまなかった。ノアさんも怪我をしてまでリヒトを守ってくれてありがとう」
……あぁ。やっぱり遠いなぁ
いつかあの背中に追いつき越えてやる。
その思いと共にリヒトは意識を手放した。
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