第16話 ハイキング? いいえ急患です。
我が家に家族が増えてから数日後、俺とノアは裏山にやってきていた。
母さんがノアがいるならいいだろう。と送り出してくれたおかげである。
「いい天気ですねぇ。空気も美味しいし……なんだか若返りますね。ね? リヒト様?」
ノアはご機嫌なようだ。というか女神って歳取るのか?
「いや……俺転生してるし。すでに若返ってるし。」
「確かにそうでした。でも本当に下界って素晴らしいわ~。ヒトも動物も草木もみんな生き生きしてる。」
天界って無機質なのか? なんかこう花畑でー天使が歌っててー足元は雲でフカフカーってイメージなんだけど。
「天界って天国? ですよね? なんかこう一面花畑みたいなイメージなんですけど。」
それを聞いたノアは
「あぁ。それは中庭ですね。」中庭? 「もっと普通ですよ。建物の中には部署があって天使達がデスクワークしてたり、教会に営業に行ったり」え? 何それ? 企業じゃん。現実感がやばい。
「他にも…「もう大丈夫です! なんかこう、夢が壊れそう!」そうですか。」
うん。天国はいつか行った時に知ればいいや。知りたくないことも世の中にはあるよね。
しばらく他愛のない会話をしながら歩いていると、広い草原にでた。
「さぁ到着です。気持ちのいい所でしょう?」
「本当に気持ちがいいですね。たまには特訓を休んでのんびりするのも悪くないです。」
草の上に寝転ぶと優しい風が頬を撫でていく。ポカポカと気持ちがいい。
「ん……あれ? 俺寝ちゃったのか?」
大自然に身を任せていたら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「おはようございます。リヒト様? 気持ちよさそうに眠っていましたよ。余程疲れていらしたんですね。」
気付くとノアに膝枕されながら頭を撫でられていた。
こちらを見下ろしながら微笑む彼女に顔が赤くなり、慌てて立ち上がる。
「ご、ごめんなさい! あー。まだ明るいしちょっとそこら辺を見てきます!」
恥ずかしさを誤魔化そうと走り出すリヒトの背中をノアは「あらあら。」とまるで子供を見るように笑っているのであった。
「はぁー。ビックリした。女神に膝枕されるとか反則だろ。」
慌てて走ったからか、草原を抜けて森の中に入ってしまっていたらしい。
「てかここどこだ? かなり深くまで来ちゃったみたいだけど……まぁ帰ろうと思えば母さん直伝の探知魔法を使えばいいか。」
気持ちを切り替えながら辺りを見回すと、見たことのない草や果物が生えている。
リヒトは久しぶりにマニュアルを使いながら、「あれは薬草、あれも薬草、この果物は……一応食べられるみたいだな。」と探検を続けていった。
どれだけ歩いただろう。そろそろ戻ろうかと探知魔法を使った瞬間、近くの木影に人間の気配を察知した。
「座ってるみたいだけど、こんな所に1人なんて遭難者かな?」
遭難者なら街まで案内すればいいや。と声を掛けに傍まで行くと、記憶の奥を擽られる臭いが鼻をついた。
「っっ! 血の臭い?! おい! 大丈夫か?」
そこには鎧を着た兵士が荒い息を吐きながら座り込んでいるではないか。
「ハァハァ……こ、子供か……なんでこんな所に……いや、ここは危険だ。すぐに……」
「喋るな! 少し静かにしていろ!」
リヒトは駆け寄ると、慎重に鎧を脱がせていく。
――っ!! 胸に深い切り傷が左肩から右下に向かってが3本……獣の爪痕か? それにしては傷が大きい……――
真剣な顔で患部を観察していく。
――とりあえず2つは血が止まっている……もう一つは……傷口の血に気泡。それも呼吸をするたびに泡が立っている……開放性気胸か! 骨は……大丈夫か。――
症状に当たりをつけると急いで応急処置に入る。
――くそっ! このままだと肺が圧迫されて呼吸が出来なくなる! 何か使えるものは……――
迷わず自分の服を破ると風魔法で四角く切断し、水魔法で覆い空気が通らないようにする。
――本当はラップが欲しい所だけど……仕方ない。布でもないよりましだ。――
リヒトは兵士を身体を左下に向け寝かせると、傷を覆うように被せていく。
ーーテープなんてないし……包帯代わりにこれで! ーー
迷わず袖を破り、風魔法で包帯をつくっていく。
ーー本当なら三辺テーピングなんだが……二辺を縛って残りを押さえていれば多少マシのはずだーー
テキパキと応急処置を終わらせると、兵士の顔色が戻ってきた。
ーー息を吸った時に布が張り付いて、吐いた時に膨らむ……よし。大丈夫そうだな。ーー
リヒトはふーっ。と息を吐いていて汗を拭うと、兵士の様子を観ながら探知魔法を使ってノアを捜し、念話で呼び掛けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます