スマッシュイップス!
久佐馬野景
プロローグ 最後のひと振り
カウンターは左から9‐2‐2‐10。
自分が9点で、相手が10点。相手のマッチポイントである。セットカウントは2対2。中学では5ゲーム制なのでフルセットにまでもつれ込んでいる。相手が次に行われるラリーで点を取ればその時点で相手の勝ち。
だが――スリースターの入った白い試合球を台上で数度バウンドさせ、平らに広げた掌の中央に乗せる。先程のラリーで自分は点を取り、差を1点にまで詰めている。得点が10対10になればそこからは俗にデュースと呼ばれ、2点差をつけなければ勝敗は決さない。
中学最後の大会の団体戦。その5人――3試合目がダブルスなので正確には6人目。ここまでは2勝2敗なので、この試合でチームの勝敗が決まる。そのため互いのチームからは点を取る度に大きな歓声が上がり、チームの全員が息を呑んで試合を見守っている。
サーブ権は今自分にある。台の左端、台上に手が乗らないようにエンドラインの外に手に乗せた球を構える。垂直に16センチメートル以上――この辺りの感覚はこの三年間で身体に染み付いている――球を投げ上げ、ラケットを後ろに引く。
今までのサービスは全てクロス――対角線の短い下回転だった。相手もそのことに慣れ、かなり台の左側に着いている。
ならば――途中までは同じモーションで、ラバーで球の下を擦るのではなく、ラケットを立てて球を強く打ち出す。特に何の回転もかかっていない、速いだけのストレートへのロングサービス。一歩間違えればレシーブ側に打ち頃の球だが、相手の意識がクロスに集中している今は絶大な効果を発揮した。相手は反応が遅れ、必死に身体全体で球に飛びつきなんとか返球する。だがその球は高く上がり、絶好のチャンスボールとなって台の上でバウンドした。相手が体勢を崩している今、スマッシュを決めればほぼ間違いなく相手は返せない。
これでデュース。望みはまだ繋がった。チーム全体が声こそ出さないものの大きく湧き立つ。
ラケットを大きく引く必要はない。狙った場所に向かって真っ直ぐに素早く打てば、それだけで球は強烈なスピードで台に突き刺さる。
歓声が上がる準備は整った。
白い球をしっかりと見て、ラケットを振り抜く。
そして、大きな大きな歓声が上がり、試合は幕を閉じた。
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