第16話 謎の答え


「第一の部下――?」

 オミクロンの名乗りにヨウサが首をかしげる。

「第一ってことは――デルタやエプシロンよりも上ってことなのかしら?」

「フ……そういうことだ」

「なんだとぉ~~!?」

 突然叫んだのは、聞き覚えのある声だった。思わず四人は顔を見合わせる。

「あれ〜? この声……」

「聞いたことあるような気が……」

 そうヨウサが疑問を口にした瞬間、オミクロンの背後にある、あのくぼんだ床からぬっと腕が出てきて、四人はぎょっとする。そこから頭を出したのは――

「あ、やっぱりデルタだべ!」

「アイツもいたんだ!」

 くぼみ部分から顔を出したのは、案の定デルタだった。オレンジ色の燃え盛る炎のような逆毛、大きくも鋭い赤い瞳、オミクロンのそれと違って赤い逆三角形の宝石がひたいに埋められている。

「てめーなぁ! オレよりも上って……オレは認めないからなっ!」

 ケンカ腰のデルタを横目で見て、オミクロンはあからさまに嫌そうにため息をつく。

「余計な横槍を入れないでもらおうか、デルタ。私は今あの少年たちと話しているのだ」

「てめーが気に食わないこと言うからだろうがっ! 撤回てっかいしろォ!!」

「仕方あるまい、事実だからな」

「何ぃ!?」

 目の前にシンたちがいるにも関わらず、デルタとオミクロンの口ゲンカが始まった。

「……敵が目の前にいるのに、仲間割れしてるねぇ……」

 しばらくぽかんとしてみていたが、ガイがあきれたようにため息をつく。

「どうやらあいつらは、あんまり仲良くないみたいだべなぁ……」

「同じペルソナの部下同士なのに、なんだか変な感じね」

 シンに続いてヨウサもあきれてため息をつく。そんなかたわらでシンジは口論する敵に構わず、あの闇の石の本を開いていた。

「――あ、シン。やっぱり石の反応が出てる」

「ホントだべか!?」

 弟の言葉に、シンだけでなくヨウサもガイもシンジに頭を寄せて闇の石の本をのぞき見る。シンが近くにきた事で黄色の闇の石の反応は消えていたが、見ればあの魔法陣の描かれた見開きページで黒い闇の石が強く点滅している。

「黒い闇の石……なんの属性だべか?」

「わかんないけど――でも」

と、シンジはまだ口ゲンカ中の敵二人の背後を指差す。

「どうもあのデルタのいる、あのくぼみが怪しいよ!」

「デルタがあのくぼみにいたってことは――闇の石を探している真っ最中だったってことかしら」

 ヨウサの推測にガイも深くうなづく。

「だとしたらオバケ騒動も謎が解けるね~。闇の石を集めていたから、邪魔者が入らないようにオバケでこの土地に来る人を捕まえていたんだね~!」

「あ!」

 とそこでシンが重要なことに気が付く。

「トモ! トモがまだ見つからないだべ!」

 シンはまだ口論を続ける二人を思い切り指差して、彼らに負けない大声で叫んだ。

「デルタ、オミクロン!! おめーら、鳥族のトモはどこに連れ去っただ!?」

 その言葉にオミクロンがちらと目線を向けた。軽く舌打ちしてデルタを一度にらむと、体ごとシンたちに向き直る。

「全く――デルタに構っていると仕事が進まんな」

「んだとぉ!?」

 しかし今度はそんなデルタを無視して、茶髪の幼子はシンたちに応えた。

「鳥族の少年というのは、あの子どものことか?」

 そうオミクロンが指差す先には――――壁に寄りかかってぐったりしているクラスメイトの姿があった。

「トモ!」

 姿を見るなり、ヨウサとガイが駆け寄る。二人がトモの様子を見てみると――

「トモ! 大丈夫!? トモ……って、あれ――?」

「眠らされてるねぇ……」

 怪我もなく、ただ眠らされているだけであることに気がつく。

「フ、邪魔するものは眠らせておくだけだ。危害を加えるつもりはない」

と、双子からの視線をそらさずにオミクロンは吐き捨てる。

「やっぱりそうか……あの神殿の入口に近づいた人を捕まえて、眠らせていたのは――」

「おめーらなんだべな!」

 双子の指摘にオミクロンは不敵な笑みを浮かべた。

「子どもの割に察しがいいな。その通りだ。その鳥の少年は地上で捕らえる前に神殿への入口を開けてしまったからな。その入口部分にエプシロンが眠りの罠を張っていたというわけだ」

「なるほどねぇ、ボクらはトモと同じ道で入ってきたってわけだねぇ」

 ガイが納得いったようにつぶやく。

「じゃあトモはオバケの罠にかかったんじゃなくて、この神殿の入口であるあの柱の仕組みを動かしちゃったから――僕とガイが落ちた、あの穴に落ちて――」

「急に行方不明になったんだべな!」

 シンジの言葉にシンも続く。トモの消えた理由がここに来て判明したのだ。

「――じゃあ私たちは、ガイくんたちが開いた入口に、たまたま落っこちたってことね」

 落とし穴の謎も納得がいったふうにヨウサがつぶやく。

「全くだ。あのまま最上階まで進んでくれていれば、こんなに早くお前たちが来ることもなかっただろうに――。予想以上にお前たちが早くここについてしまったおかげで、こちらの予定は大狂いだ」

 忌々いまいましげにつぶやく幼子に、双子はにやりと剣を構えた。

観念かんねんするだ、オミクロンにデルタ!」

「闇の石探しは、ここであきらめてもらうよ!」

「あいっかわらず生意気だな……。だれがてめーらに屈するか!」

 双子の言葉に、デルタが苛立いらだちげに返すが――思いがけず、オミクロンは真剣な表情で沈黙していた。緑の瞳がじっと双子をとらえている。しばしの沈黙をはさんで彼は口を開いた。

「――神殿の謎を解くほどの子ども……か。確かにお前たちはペルソナ様が言うように、かなりの危険因子だな」

 言いながら、床のくぼみから外に出ようと両手をついて上がりかけていたデルタを、幼子は容赦ようしゃなくひとりして穴に逆戻りさせる。

「いって――って、オミクロン!」

「お前はおとなしく闇の石を守る結界をとけ。ここは私が相手をする」

「なっ――」

 オミクロンの言葉に、デルタが思わず息を飲む。

「お、お前がかよ――珍しいな……」

 デルタの反応に、シンとシンジは思わず目線を合わせる。

「――あのオミクロンが――僕らの相手をするってこと?」

「あんなにちっこい体で、オラたちに敵うんだべか?」

 そんな二人の会話が耳に届いていたのだろうか、オミクロンが鼻を鳴らした。

「フン、あまり見た目で人を判断しないほうがいいぞ。どうしてこの私がペルソナ様の第一の部下なのか――その理由を見せてやろう」

 言いながらオミクロンのその両手が怪しく光り始めていた。思わず構える四人の前で幼子は静かに呪文を唱えた。

『世界に渦巻く闇の力よ――我が魔力に従いてその姿を現せ――』

 その瞬間だった。急に彼らの目の前の床に黒く小さな円が浮かび上がったと思ったら、次の瞬間にはそれは大きな黒い魔法陣となって、くるくると回りだした。そしてその円の中心から放たれるのは邪悪な闇の波導――

「召喚術だぁ~!」

 いち早く術に気がついたガイが大声を上げる。しかしそんな彼らの反応とは無関係にオミクロンの呪文が続く。

「いでよ――『フォーミカモーンストゥーム』!!」



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