№319

 その夜は友人と3人で肝試しに行ったんです。友人の軽自動車に乗って、有名な心霊スポットの廃病院へ。僕たちは誰も幽霊とか信じてなかったし、ただちょっと不気味な雰囲気を楽しみたかっただけなんです。

 病院はかなり山の方、途中で車を降りて歩かないと行けないような場所にありました。放置されている建物なので、周りは草木が生い茂ってなかなかたどり着けない反面、鍵が壊れていてあっさりと中に入ることが出来ました。

 落書きだらけで、不気味と言うより荒んだ雰囲気の場所でした。懐中電灯でいろいろ照らしていたら、友達の一人が

「あれ? あれ?」

 と呟きながら忙しなく光を振り始めました。入ってきた玄関がなくなっている、と言い出したんです。手元の光はそれほど大きくないので、ただ見落としてるんだと思ったんですが、本当に玄関がない。

 僕はその時点で足が震えだしたんですが、友人らは強がっているのか楽観的なのか

「病院だし、他に出入口はあるだろ」

 と、どんどん奥に入っていきました。僕もその場で一人になりたくなかったので二人に必死に付いていきました。

 階段を上って2階の診察室などを見ていたら、今度は僕が気付きました。階段がなくなっていたんです。さすがに二人も焦りを隠しきれず、探索を切り上げ降りる方法を探しだしました。

 その時、暗闇から音がしたんです。かなりはっきりと、足音のようなものが響いてきたんです。僕たちは近くの部屋に入り、ドアを閉めました。どんどん近づく足音に、僕たちは息を殺して身構えていました。近づいたかと思えば遠ざかり、また近づき、を繰り返し、30分くらいでしょうか、ようやく足音がしなくなった時には僕らは黙って泣いていました。

 3人で顔を見合わせて、脅威が去ったことに安堵していました。が、一人が悲鳴を上げました。

「ドアがない」

 振り返ると、部屋の出入り口がなくなっていたんです。もうパニックでした。さっきまでの沈黙が嘘みたいに僕たちは叫び泣いていました。

 車を運転してくれた友人は

「ごめん、俺のせいで」

 と謝り、もう一人の友人は丸まって苦しそうに泣いていました。僕は壁を叩いて「助けてくれ」と叫んでいました。

 すると、壁が突然ガラガラと崩れだして、人が顔を出したんです。

「大丈夫か? しゃべれるか?」

 その人は消防団の人だった。助かった、と思って手を伸ばそうとしても、声を出そうとしても、どちらも出来なかった。体中が痛くなり、そのまま気を失いました。

 僕は病院で気がつきました。廃病院に行く途中でトラックと接触事故を起こしていました。スピードが出ていたこともあり、僕たちが乗っていた軽自動車は潰れ、友人二人は即死。僕はかろうじて生き残りましたが、ご覧の通り、後遺症がたくさん残りました。

 事故があった場所は、僕が車を降りたと思っていた場所でした。病院へ行って体験したことは全部夢だったんでしょうか?

――手束さんは、信じてもらえないかもしれませんが、と付け足した。

 その後たまたま見た心霊番組でその廃病院が紹介されていたんです。僕がその時に見たままでしたよ。間取りも、落書きも。

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