№271
高校生から2年ほど引きこもりになっていました。成績の不振や友達への劣等感、部活も上手くいかなくて。ある日なんとなく無気力になって1日学校を休んだら、休み癖が付いたのか登校できなくなりました。両親はおおらかというか適当な性格だから「気が済んだら進学か就職かするだろう」と放置されました。
引きこもっている間にしていたことは、もっぱら自室でネットサーフィンです。動画サイトで動画見たり音楽を聴いたり、小説、漫画、ゲームも無料の物がたくさんあったので一人で退屈はしませんでした。
SNSにそれらの感想を書いていました。自己満足でやっていましたが、日が経つにつれてちょっとずつ反応がみられました。
一番にコメントをくれたのが
引きこもりの私にとって久しぶりの友達です。一人になってぼんやりしているうちに凍ってしまった心が解けていくようでした。私はSAWに依存するようになりました。自分の個人的なことも話、SAWのことも聞き出そうとしていました。
でもあんまりSAWは自分のことを話してくれなくて・・・・・・。恋に近い感情になっていました。SAWが男でも女でも子供でも老人でも何でも良いから会いたいって。そんな気持ちを見透かされたのか、SAWは段々返信もSNSの更新もしなくなりました。
ある日、夢を見ました。私はマンションの部屋の前にいました。チャイムを鳴らすと「はい」と返事。でも声を出せません。しばらくするとドアが開きました。チェーンがかかっていて少しの隙間から綺麗な女性がちらっと覗きました。私が見えないのか、不思議そうに首をかしげています。中から「ママー、こっちきて!」と舌っ足らずな女の子の声が聞こえ、女性は返事をしながらドアを閉めました。
その女性がSAWだと思った瞬間目が覚めました。そして現実に引き戻された気になりました。私と違ってSAWはちゃんと自分の生活を営んでいるんだって。
それから私はとりあえずアルバイトを始め少しずつ生活を変えていきました。今でもこの気持ちの変化がなんなのかよく分かりません。
去年、正社員に登用され、一人暮らしを始めました。上司がとてもいい人で部下をよく食事に連れて行ってくれました。先日初めて上司の家にお呼ばれしました。そこは、夢で見たマンションによく似ていました。
「いらっしゃい」
と上司が玄関を開き、その後ろに女性と小学生くらいの女の子がいました。
「夫から話は聞いています。どうぞ上がってください」
とニコニコしているその目は、夢の中でドアの隙間から覗いていた目です。
「こんにちは」
ぺこりと挨拶をする声は、夢より幾分かしっかり話していますが間違いなくあの時の声です。
その日のうちに、私は上司の奥さん――SAW――と仲良くなり、ずっと知りたかった本名や個人的な連絡先を交換しました。彼女は私に気付いている様子はありません。でもこれから、上司なんかよりずっと仲良くなります。だって、これって運命ですよね。私の強い気持ちが引き寄せた運命ですよね。
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