№251

――目黒さんは話ながらも始終そわそわしていた。

 ずっと夫にストーカーされていました。夫とも言いたくないんです。好きで結婚したんじゃないんです。私が拒めば拒むほど、私の周りの人間に迷惑がかかって、5年くらいで諦めました。

 結婚して異常性が無くなるわけもなく、私はほぼ監禁状態で外に連絡を取ることすら出来ませんでした。と言ってもその頃には友達も居なくなってたし、家族とも疎遠だったので連絡取る相手もいなかったんですが。

 一度、外出したときに逃げ出したんですが、行く当てもなく、また体力も落ちていたのですぐに捕まりました。あの時は大げさになったけど、周囲は私の方が異常だと思っていたようで、商業施設の警備員さんが夫に「大変ですね」とかねぎらっていました。

 逃げ場がないと思っていたとき、夫が仕事の部下を家に連れてきました。私は指示されたとおり、挨拶して寝室に閉じこもりました。初めてではなかったんですが、夫は他人を家に入れるのを嫌がるので、めったにないし突然だし、すぐに帰すので助けを求めようとは思っていませんでした。

 その日、先に寝ていたら夜中に揺り起こされました。部下の女性でした。女性はバスタオル一枚体に巻いた状態でした。一応不倫だったんだと思いますが、その時はあっけにとられて気付きませんでした。

「奥さん、交代しません?」

 私は夫以外と話すことはなく、その時とっさに声が出ませんでした。女性は私の返事を待たず、私をベットに押さえつけ口づけをしてきました。振り払おうにも力が入らず、ほとんど無抵抗で、されるがまま。

 気がついたら、私はバスタオル一枚で女性に覆い被さっていました。

 そう、入れ替わってたんです。

 ベッドに横たわっていた私がにんまり笑って

「それ、あげるわ」

 と私を指差しました。

 その途端になんだか全て理解したというか、やるべきことが分かって私は自分の服を着て、鞄を持って、外に出ました。夫はその時どこに居たのか分かりません。とにかく逃げました。体が健康だから出来たんだと思います。見てください。若いし、丈夫そうでしょ? 私、もともと同じくらいの年だとお思うんですけど、全然違いましたよ。

 そうだ、免許証あるんです。前の。見ます? 更新したばかりだから分かると思うんですが、すごい老けてますよね。

 私、もう行きますね。今更返せって言われても困るんで。あ、謝礼。いただきます。では。

――目黒と名乗る女は免許証を忘れるほど慌てて去って行った。後日免許証の写真の女性が夫を殺して捕まった。逮捕された女のにんまりとした笑顔がニュースに映っていた。

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