№250
高校になって電車通学がはじまりました。中学生まで徒歩で通学していたので、入学したばかりの時は新鮮で楽しかったです。同じ駅から乗る同級生もいて、同じ時間の電車に乗ることもあって友達になりました。
僕は毎日決まった電車に乗っていましたが、友達は特に決めていなくてだいたい1週間に2回くらい一緒になるくらいでした。
電車通学にも慣れてきた5月の中頃、一人で電車に乗っていました。田舎の鉄道なのでさすがに座ることは出来ないけど、ぎゅーぎゅーになるほどでもない混み具合です。つり革を握ってぼんやり外を見ていたら、さぁーっと外が真っ暗になり、トンネルに入りました。トンネルなんていつも通りません。電車を乗り間違えたと思いましたが、いつもの電車に乗ったはずでした。他の乗客は特にトンネルに反応している様子はありませんでした。
僕が一人でオロオロしているうちにトンネルは終わりました。ほんの3分ほどです。電車はちゃんと高校の最寄り駅に到着しました。時間通りで。下車して学校に行きましたが、そのトンネルのことが頭から離れませんでした。もしかして新しいトンネルの建設中なのかも・・・・・・まあ、そんな意味の分からない仮説も立てたりしましたが、帰りの電車ではトンネルに入らずに帰りました。
次の日、登校が一緒になった友達に話してみました。その日はトンネルに入ることなく普通に駅に到着しました。僕は段々自信がなくなってきていましたが、友達はそういう不思議な話が好きだったようで、トンネルに興味を持って毎日同じ電車に乗るようになりました。
さらに1ヶ月ほどして、またトンネルに入ったんです。
友達は興奮し、他の乗客を押しのけて扉の窓に張り付きました。そんな行動を取るとは思わず、僕は戸惑いました。周りの人の反感が怖くて、その場で「おい」とか「ちょっと」とか声を掛けることしか出来ませんでした。
そして3分ほどしてトンネルから出ました。友達はまだ扉に張り付いて外を見ていました。その体勢のままぶるぶる震え始め、痙攣しその場に倒れました。さすがに傍に駆け寄りました。とはいえどうしたら良いのか分からず、声を掛けていたら友達は小さな声で「黒じゃない、黒じゃない」と呟いていました。
駅に着くと他の乗客が救急車を呼んでくれていたらしく、すぐに友達は運ばれました。 友達は入院し、休学したと聞きました。詳しいことは説明されませんでした。
その日から1週間ほどして、また登校中にトンネルに入りました。僕はずっと扉前を陣取るようにしていました。友達が何を見たのか知りたかったんです。トンネルに入って、外を見ようと窓に張り付きました。
でも次の瞬間、襟首をつかまれ強い力で引っ張られ倒れました。そこに立っていた乗客がさっと僕を避けたので、僕は床にたたきつけられ、息が止まるかと思いました。痛みに耐えながら見上げると、友達がじっと僕を見下ろしていました。無表情で口をぎゅっと結んで怒っているようでした。
トンネルを抜けると、さっき僕を避けたおばさんが
「大丈夫? 貧血?」
と突然心配してきました。友達はいなくなっていました。
あれから別の時間の電車に乗るようにしたら、一切トンネルに入り事は無くなりました。友達は会うこともなく、知らないうちに退学していて行方は知りません。
――村田さんは今でもトンネルに入ると緊張するそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます