怪談レポート

№２３２

　これって幽霊の話じゃないといけないんですか？　いや、人間が怖いとか災害が怖いとか、そういう話じゃないんですけど。私は幽霊だと思うんですけど。

　すみません、とりあえず話しますね。

　私が勤めている事務所はオフィスビルの中の１フロア借りていて、人の出入りも多い駅前にあります。同じビルに１０社くらい入っていて、平日出入りが多いので知らない顔があっても気になりません。

　ある日、私が有給休暇明けに仕事に行くと、事務所の雰囲気が重くなっていました。聞くと前日の朝、私たちの事務所が入っているフロアのトイレで男性が亡くなっていたそうです。それを見つけたのが私の同僚で、ショックから体調不良で数日休みました。

　男性の身元が一切分からなかったのが一番大変でした。見た目はきっちりスーツを着たサラリーマンふうだったそうですが、身分が分かるものを全く持っていなかったそうです。男性はうちの社員でもお客さんでもなく、他の会社も関係者ではないと言っていましたが、警察はこのビルのどれかの事務所が隠してるんじゃないか、つまり事件性があるんじゃないかと何度もやってきました。

　あ、ちなみに死因は心不全だったそうです。死因が分からないときも心不全と言われるそうですね。

　発見した同僚が復活する前日に、一人の男性が訪ねてきました。同僚を名指しして

「お礼を言いたい」

　と、言うことでした。休んでいる旨を伝えると

「また来ます」

　と、帰って行きました。次の日復活した同僚に話すと、身に覚えがないと言い、男性の勘違いだと思っていました。

　その日の夕方、帰り際にまた男性が来ました。私が先に気付き、同僚に声を掛けると同僚は悲鳴を上げてその場に倒れました。気を失ってしまったんです。事務所は騒然となり、救急車が来て同僚は運ばれました。男性はいつの間にかいなくなっていました。

　次の日土曜日で休みでしたが、同僚からメールがありました。同僚を訪ねてきた男がトイレで死んでいた男とそっくりに見えパニックになってしまったそうです。

　同僚はその後そのまま退職してしまいましたが、男は何度も事務所に来ました。同僚が退職したと言ってもリプレイするかのように「お礼を言いたい」とやってくるんです。

　同僚の言っていることに間違いが無ければ死んだ人の家族かもと警察にも言いましたが、警察を呼んでもいつの間にか消えてしまいます。何度も通報している内に、警察も相手にしてくれなくなりました。

　先日久しぶりに同僚から連絡がありました。

「新しく就職した会社にも現れる。また仕事やめた。怖いからお祓いに行ったのに、何も憑いていないって言われた」

――鹿野さんの事務所は今月でたたむことになったそうだ。