№228

――――国清さんはWEB会議サービスを通じて話をしてもらった。

 私は一昨年定年退職になりました。貯金も十分あり、株なども持っているので老後はゆっくり過ごす予定でした。

 家にいるようになってから積極的に家事や、妻の手の届かないところの家の修繕や掃除も進んで行いました。妻もそれには喜んでいました。妻はずっとパートをしていて、それにやりがいを感じているため、しばらく辞めるつもりはないそうです。だから日中は私一人で家にいることが多くなりました。

 おかしいなと思い始めたのは、1ヶ月ほど経ってからです。私が一人で家にいるのにペタペタと裸足で歩く音がしました。泥棒かと思ったんですがやっぱり誰もいませんし、戸締まりもしっかりしていました。他にも人の気配がしましたが気のせいと思っていました。

 ある日昼間にテレビで映画を見ていると、画面が突然荒れ始め、音もゆがみ出しました。リモコンで操作をしていたらプツンと画面が真っ暗になり、そこに私が写ったと思ったら背後に背の高い男が立っていました。驚いて振り返っても誰もいません。

 他にも何もないところで足を引っ張られるような感覚がして躓いたり、冷凍庫から出したばかりの肉が腐り始めていたり・・・・・・。だんだん不気味に思えてきて、パートから帰ってきた妻に相談しました。妻は

「私はずっとそう言ってたけど?」

 と、あきれたようにため息をついたんです。

 妻は家を買って住み始めてすぐ、昼間一人の時におかしなことが起こっていると気付いていたそうです。それを私に言っても

「初めての土地でまだ慣れてないんだろう」

「せっかく買ったのに変なこと言うな」

 と相手にしてなかったそうです。私は全然覚えていません。そういうと

「やっぱりね」

 妻は仕事のことしか頭にない私に早々に見切りを付けていました。

「だってあなた、娘が高校の時に1ヶ月以上、同じ男に強姦される夢を見てノイローゼになったとき、自分が何て言ったか覚えてる?」

 確かに娘が心を病んだ時期はありました。でも私自身が何を言っていたかは覚えていません。娘は今、隣県で結婚して孫もいますが出産時も里帰りすることもありませんでした。

 私が引っ越ししようと言っても

「自分が怖くなったら逃げるのね」

 と妻は鼻で笑います。

 今でも私たちは同じ家に住んでいます。今更一人になることもできませんが、引っ越ししようとしても妻は拒みます。今では一歩でも家から出ようとすると、妻に「逃げるのか」と言われるような気がして私は引きこもりになっています。家に起こる怪異も酷くなっています。

 私は・・・・・・。

――――そこで通信はぷつりと切れ、これ以降連絡は取れていない。

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