№195

 子どもの頃の体験なんで、自分でも「本当の話なのか?」って疑問に思うことはあるんですが・・・・・・。

 小学2年生の時です。夜中に目が覚めたんですよ。結構はっきりと起きてしまって、もう一度寝ようとしても目が冴えて全然眠れない。

 その頃兄と一緒の部屋で布団を並べて寝ていたんですけどね、ふと横を見たら兄がいない。いつ兄が起きて出て行ったのか全然判らなくて、もしかして俺が起きたのは兄が起き出して物音を立てたからかなと考えたわけです。でもなんで帰ってこないんだろう。トイレだってそんなに時間はかからないし。もしかしてトイレで寝ちゃったのかなと思って、起きて部屋を出てみました。俺も兄もたまにふらふらって寝ぼけたまま動いて頭ぶつけて驚いたり、廊下で寝ちゃったりしてたんで、今回もそれなら起こしてやらないと、思ったんですが。

 でもトイレには誰もいませんでした。マンションだったのでそれほど部屋数はありません。お風呂、リビング、そして最後に両親の部屋に行きました。両親も居ませんでした。俺は急に怖くなって家の電気を全部付けて周りました。その間も半泣きでみんなを呼んでいましたが誰からも返事はありません。

 うなだれていたら、リビングのテレビが突然点きました。当時はブラウン管テレビで、砂嵐が映りました。知ってます? 砂嵐。ざーざーという耳障りな雑音と、白と黒で乱れた画面。じーっと見ていたら、ざーざーの中から人の声が聞こえたんです。俺は人恋しさに、その音を聞き取ろうと近づきました。最初は判りませんでしたが、兄の声のようで、さらに近づくと画面から二本の手が伸びてきて俺を掴み、テレビの中に引き込んだんです。わっと声を上げましたが、その先には兄がいました。

「何でテレビの中にいんの?」

と聞くと、兄は眠そうな顔で

「何言ってんだよ、お前がテレビの中にいるから引っ張り出したんじゃないか」

 不機嫌そうに言うと、あくびを一つして部屋に戻っていきました。俺も、何が何だか判らなかったけど、眠くなってきたから部屋に戻って兄の隣で寝ました。

 次の日の朝、俺は昨夜、皆でどこか行ってたか聞いたら、全員首を横に振りました。兄は「宗二がテレビに入ってる夢を見た」と言ったので俺は「夢じゃないよ」と言うと母も父も笑っていました。俺が冗談を言ったんだと思ったそうです。兄だけ信じてくれました。兄も「やけにリアルだなぁ」と思っていたそうです。

 ただ俺はテレビに入ったと思ったのに何で出てきていたのか訳が分かりません。そもそも俺だけ入っていたのか。後で思い返すと、怖いから全部付けていたはずの家の電気が、兄に会ったとき全部消えていたんですよね。だから、違う世界を行き来していたのは確かです。最初に俺が寝ぼけてテレビの中に入っちゃったんですかね。まあ、入れるならそう考えるのが自然ですけど、そもそも前提がおかしいから、やっぱり訳が分からないんですよねぇ。

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