№187
――桐間さんが迷子になったのは高校生の修学旅行の時のことだ。
旅行中は班に分かれていたんですが、勿論そんなのは建前で、自由時間になってすぐにそれぞれ別のクラスの仲の良い友達で組んだり、班の中で男女に分かれたり、好きに過ごしていました。私は友達がいなかったので、最初から一人で過ごす予定を立てて一人で動いていました。
観光地だからそれほど迷わないと思ったんですけど、どこを歩いているのか分からなくなりました。当時はスマホなんて便利なモノもなかったので、行ったり来たり地図をぐるぐる回したり半泣きでした。なぜか人通りもなくて・・・・・・30分くらい迷っていたら同じ学校の女子4人のグループに出会いました。助かったと思ったんですが、その子たちも迷子になっていて疲れて道ばたに座り込んでいました。ちょっと不良っぽい子たちで、道のど真ん中にだらしなく座っているのを見て恥ずかしくて去りたかったんですが、ふと彼女たちが座り込んでいる真ん前の民家からおばあさんが出てきました。着物を着て、真っ白な髪にかんざしを挿していました。
おばあさんは私たちにどうしたのか聞いてきました。私たちは口々に迷子になったこと、駅までの道を知りたいこと、歩き疲れたことを話しました。おばあさんは静かに「うんうん」と聞いてくれ、駅までは近くのバス停から行けることと、バスが来るのが30分後だからそれまで家で休んで良いと言ってくれました。私は恐縮したんですが、グループの子たちは遠慮なくずかずかと入っていきました。後で停留所で気まずくなるのも嫌なんで、私も家に入りました。
おばあさんの家は古民家で、私たちは広い和室に通されました。おばあさんはすぐにお茶とお菓子を持ってきてくれました。私はお茶を飲みながら庭を眺めていました。手入れが行き届いていてまるで水墨画のようなお庭でした。ふとそれまで賑やかだったグループの女子たちが静かになっていることに気づきました。振り返ると全員畳の上で爆睡しています。私も睡魔に襲われました。でもそれが本当に異常なんです。体が重くて、思考できないくらい頭も朦朧としてきて・・・・・・。だからあんまり覚えてないんですが、とにかくこの家を出なきゃと、這うように家を出ました。家を出てからも眠気は去らず、バス停に来たバスに乗ってようやく目が覚めました。
集合場所の駅に着くと時間ギリギリでした。グループの子たちは後のバスに乗って時間が過ぎてから戻って来ました。先生に怒られているのを見ていると、まだまだ眠そうでした。あのときはまだ「おばあさんにお礼できなかったな」と気落ちしていたんですが・・・・・・。
あの後、4人は次々に退学し、行方が分からなくなりました。でも私にだけは電話があるんです。どれだけ連絡先を変えても。「何であんたは来ないの」「早く来てよ」って。私があの子たちの友達だったら行くかもしれません。でもただのクラスメイトでしたから、ね?
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