№180

 高校生の時にすごく体調が悪い時期がありました。高校2年生の今くらいの冬に入った頃だったと思います。突然湿疹が出来たり、寒気が止まらなかったり、逆に何もしてないのにのぼせたようになったり。一番嫌だったのが食べたものを吐いてしまうことです。食欲があって普通に食事をしたのに、食後に突然気持ち悪くなって嘔吐してしまうんです。学校の友達も最初は心配してくれましたが、徐々に不快そうに顔をゆがめるようになりました。当然ですよね。私が同じ立場でも迷惑だと思います。気持ちだけじゃなく身体的にもダメージが大きくて、登校しても保健室で寝てばかりになりました。先生は「受診しなさい」と言ってきましたが、両親にそんなことを言ったら絶対に嫌がられるので、先生には適当に返事をして流していました。大体3ヶ月くらい続きましたね。でも治療したわけではなく、呪いを解いたから直ったようなんです。

 私の両親はそもそもなんで結婚したのか疑問なくらいお互いに無関心で、私に関してもあまり迷惑掛けて欲しくないと思っている節がありました。私の不調は知っていたと思いますが、特に声を掛けてくれたり、治療費を出してくれることはありませんでした。担任から何度も連絡があると愚痴っていることはありましたが。

 体調が良くなる直前、さすがにもうダメだと思い、自殺を考えていました。その日は家に私しか居なかったので、身辺整理として部屋を掃除していたんです。どうやって死のうかなって考えながら、しんどくなったら休んで。ベッドの下に引き出しがあって、一応収納できたんですが普段使うことはありませんでした。何も入ってないと思いながらも引っ張ってみるとそこにはお札のようなものが数枚貼り付けられていたんです。ぞっとして、何故か「これをなんとかしないと死んじゃう!」って確信しました。自殺しようとしてたんですけどね。当時私が相談できる人といったら担任か保健室の先生だけでした。学校に電話したところ、休みでしたが運良く担任の先生がいて、私は半分泣きながらお札のことを話しました。先生は相づちを打ちながら聞いて、しばらく考えた後、「先生の友達にそういうの詳しい人が居るからちょっと待ってて」と言って電話を切りました。1時間くらいして、今度は非通知で電話がかかってきました。相手の男性は先生の友達だと言い、これから指示を出すからその通りにお札を処分しろと言ってきました。最終的にお札は燃やしたんですが、あのときパニクっていたので細かいところまでは覚えていません。その後徐々に体調は戻り、私は元の健康体に戻りました。それと同時期に両親が交通事故で他界しました。そう、その人が言ってたんです。「『人を呪わば穴二つ』って言葉があるから」って。自宅のベッドの下にお札を仕掛けられる人なんて限られてますよね。でも、あんまり考えないようにして、今は二人を弔っています。

 そういえば、あなたの声、あの人に似てるかも。

――秋田さんはにっこり笑って帰って行った。

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