№166

 実家の近所に金持ちのおばあちゃんが住んでいました。親世代もその親の世代の人も、皆おばあちゃんと仲良くて、私たち子供世代も自然と懐いていました。おばあちゃんは一人暮らしで、いつも家に居ました。家は大きくてお手伝いさんがいつも綺麗に掃除していたし、綺麗な洋服を着てお庭で紅茶を飲んだりしていたので、別世界の人間のように思っていました。私や友達はよくおばあちゃんの家に遊びに行っていました。おばあちゃんと一緒にお姫様ごっこをするのが楽しみでした。というのもその時はいつもおばあちゃんは綺麗な食器や、アクセサリーを出してきてくれるんです。「あら、あなたの指輪素敵ね」「これは王子が誕生日に買ってくれたのよ。あとペンダントも買ってくれたの」「では今度の舞踏会につけてきてくださる?」みたいな感じで。あんな小っ恥ずかしいごっこ遊びによくおばあちゃんも付き合ってくれたなぁと思います。ある日私がうっかり指輪をポケットに入れたまま帰ってしまったとき、両親に大目玉を食らい、3人でその日のうちに謝罪に向かいました。おばあちゃんも笑って許してくれたし、ちょっとした間違いなのに大げさだなと思いましたが、後で母に「あれは本物のダイヤよ。おばあちゃんは一つも偽物は持ってないのよ」と教えてくれてびっくりしました。ままごとに使うものじゃないですよね。私も成長し、ままごとをする歳じゃなくなったんですが、たまにおしゃべりに言ってました。その日はめずらしくおばあちゃんが家から出て通りで誰かを待っていました。どうしたのか聞くと、ちょっと待ってねと。それからすぐ警察が来ました。難しい顔で家の中に入って行くので、何があったのか聞くと「泥棒が入ったのよ」と涼しい顔で言うのです。さすがにこれは「ちょっと」じゃ終わらないだろうと思い、私はいったん帰り後日詳しく聞きました。おばあちゃんがお手伝いさんと買い物に行ってる間に空き巣が入って貴金属をあらかた盗んでいったそうです。そしてその話を聞いたとき、すでに犯人は自首して逮捕されていました。犯人は小さい頃に一緒におばあちゃんの家に遊びに来ていた友人です。友人はその頃生活が荒れていて、悪い友達と遊ぶのにお金が欲しくなり、勝手知ったるおばあちゃんの家に入り込んだようです。「あの指輪を持って行ったのよ」と言われ最初は意味が分かりませんでしたが、指輪を見せられ自分が間違えて持って帰ったものだと気づきました。「盗んだ後一度はめたのね。やっぱり女の子ね」私はその言葉にぞっとしました。というのも、他の友達からの話で、自首した友人は左手の薬指が切断されていたと聞いていたから。指輪は記憶と違わず綺麗に輝いていました。おばあさんは事件の後すぐに引っ越しして、今はどこでどうしているのか誰も分かりません。私は・・・・・・正直ほっとしています。

――灰野さんは苦笑いした。

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