№90

 従姉とは仲がよく、家は離れていましましたが、子供の頃は父に車で送ってもらって月に一回は遊びに行っていました。

 その日、何をしようかという話になり、従姉は「近くにお化け屋敷があるから行ってみないか」と言いました。私は遊園地のアトラクションかと思い、お金を持っていないけど大丈夫かと心配しました。従姉は「タダで入れるよ」と私をある一戸建ての家に連れていきました。窓の少ない大きな家だったと記憶しています。壁は薄暗く、庭は草がうっそうと生い茂り手入れされている様子はありません。そこは近所の子供たちが肝試しにこっそり使っている空き家でした。本物のお化けが出るとわかり、私は足がすくみましたが、従姉が「私は初めてはいるんだ」と楽しそうに言うので、なんとなく拒否できず、そのまま二人で中に入りました。ですが、あっさりと玄関から中に入れ、「なんだ、大したことないな」と緊張の糸が少し緩んだんだと思います。従姉も同じだったようで、「二手に分かれよう」とずんずんと中に入っていってしまいました。私も階段で2階に上がり、すぐそこの部屋に入りました。ドアを開いた瞬間、大きな男の顔が目に飛び込んできました。さすがにそれを見たときは叫びそうになりましたが、それは本物ではなく壁に描かれた絵でした。頭は天井、顎は床に付くくらいの大きさで、肖像画というものでしょうか、とにかくリアルな男の絵です。不良とかが塀に落書きとかするじゃないですか、そう言うものだと思って、「こんなところもいたずらされるんだなぁ」と不思議に思い、近づいてまじまじと見ていました。すると後ろから名前を呼ばれました。叫ばれたというべきでしょうか。振り返ると従姉が驚愕の表情で私を見ていました。従姉も落書きに驚いてるんだなぁと考えていたら、がっと手首をつかまれて、そのまま走る従姉に引っ張られお化け屋敷の外に出ました。従姉は振り返らず、そのまま一目散に従姉の家に向かいました。私はそんな従姉の様子が怖くてべそをかいていましたね。伯母さんが私たちの様子を見てどうしたのか聞いてきましたが、私の泣き顔を見た従姉は一緒になって泣き出して、結局あやふやなまま、私は父に連れられて帰宅しました。

 それ以来、従姉との交流は冠婚葬祭や特別なイベントくらいだったんですが、先日そのお化け屋敷が取り壊されたことを知って、従姉に電話してみました。従姉はあまり話したくないようでしたが、肖像画のことをいうと「そんなの知らない」と言いだしたのです。見逃すような大きさではなかったし、ドアの正面にあったんです。見てないはずがありません。「だって、あの時泣くくらい怖がってたじゃない」というと、今度は従姉が戸惑いました。「覚えてないの? あなたが壁を見て大笑いしてたから憑りつかれたと思って……」

――尾宮さんはまた従姉と疎遠になったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る