№88

 今日は懺悔に来たんです。懺悔といえば教会ですけど、私にとってはこっちの方がいいかなって。

――それは宇陀さんがまだ小学生に上がる前に始まったという。

 私には姉がいました。私が3歳くらいの時に小学生くらいだったと思います。ただ、学校に行っている様子はありませんでした。いつも私の面倒を見てくれていました。後から知ったのですが、姉は父の連れ子で、私の母とは血のつながりがない、いわゆる異母姉妹だったんです。だから母は姉のことが嫌いだったようです。いつも姉は同じ服を着ていたし、ご飯も十分に与えらていなかったようです。父はそれを見て知っていたはずなのに守るようなことをしていませんでした。それどころか子供が嫌いなようで、私が大きな声を出したり泣いたりすると拳が飛んできました。そんな時、母ではなく姉がかばってくれたので、姉はあざだらけでした。

 5歳くらいの時に姉が布団から出てこれなくなりました。私は姉が大好きだったからずっと傍にいて、喉が渇いたといえば水を運んで、おなかが痛いといえばさすってあげました。あの頃の私にはそれくらいしか看病の仕方がわかりません。

 姉はそれでも私に優しく笑ってくれて「おねえちゃんの体が動かなくなったら、代わりにお願いね、代わりになってね」ってずっと言ってました。私は「なんでもするよ。おねえちゃん、何がほしい?」と答えていたと思います。私もあの頃の記憶はあいまいで……。

 ある日、布団の中から姉がいなくなっていました。家じゅう……といってもワンルームでしたが、探し回りましたが見つからず、父母に聞いたら「そんな奴しらない」と言われました。それから少し記憶が途切れて、気が付いたら二人ともいなくなっていて、私は施設にいました。どうやら二人はアパートが全焼して逃げ遅れたそうです。私だけたまたま助かったと。それ以降、私は時々意識がなくなります。意識がなくても、周りに人達は普通に生活していると言います。たぶん、いなくなった姉が、私の中に入ってるんじゃないかって、そんな気がするんです。私は今、二人分の命を生きている。

――私は宇陀さんに謝礼を渡しながら、今はどっちだと聞いてみた。彼女はくすっと笑い、何も答えず帰っていった。

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