№76
――穂苅さんは私と目を合わせないようにしているようだった。
昔の話です。私が高校生の時の話。その時ある競技の部活のマネージャーをしていました。もともと兄がその競技をしていたから、私もその競技についてそこそこ知識があり、それを見込まれて、兄に勧誘されましてマネージャーになりました。兄が卒業しても続けていたので、古株としてかなり後輩や先生に頼られていたと思います。それで、きっと、私も調子に乗っていたんだと思います。
ある日、後輩の一人が私の家に来ました。兄が後輩を集めて遊びに行くことはありましたが、その日は兄も両親も不在で、私一人でした。兄はいないと言ったら、私自身に相談したいことがあると。私はその子が不調だと知っていたし、兄よりも信頼されていることに浮かれてしまって、話を聞いてあげようと部屋にあげてしまったんです。バカでした。私は体格のいい男子に簡単に組み敷かれて服を破かれて……。
気がついたら両親と兄が帰ってきていました。無意識のうちに、風呂に入って体を洗い流し、服を処分して、後輩が来た形跡を全部消して、何食わぬ顔で迎えていました。きっと知られたくないという気持ちが強かったんだと思います。それでもそれが限界で、風邪気味だから寝るね、と早々に布団に入り私は一人泣きながら眠りました。
次の日、私は授業も部活も休みました。そして、その後輩は、校舎の屋上から落ちて大怪我をしました。
あぁ、別に犯罪の告白じゃありませんよ。でもね、休んでいるはずの私が屋上から降りてくるのを見たっていう人が何人も現れたんです。怪しまれましたが、実は私は保健室に登校してて学校にはいたんですよ。保健室にずっといて保健の先生や担任と話をしていたんです。所謂アリバイがあったんです。噂立ちましたが、先生方が否定してくれたお陰ですぐに消えました。当然ですよね、皆あの事はしらないんですから。
でもその話を聞いたとき、ふと思い出したんです。あの夜、泣きながら寝ていると誰かの視線を感じて布団から顔を出しました。すぐそこに私がいました。なぜか怖くなくて、あ、私だなって。行ってくるよ、お願いね。テレパシー見たいにそんな会話をしました。そしてドアを開けて出ていったんです。もしかしてその私が後輩を……? 生き霊って言うんですか? 生き霊ってドアを開けるんですか? うーん。じゃあ、まだ戻ってきてないかもしれませんね。きっと帰ってくる時もドアを開けてきますよね。
後輩はまだ生きてますよ。もう競技はできないようですが。でも、もし帰ってきたら、また、お願いしようかなって。
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