№73

――これは東田さんが小学生の時の話らしい。

 このぐらいの時期でした。友達が火事で亡くなったんです。自宅ではなく、お母さんの実家に家族で帰省しているときに、その実家が火災に遭いました。未明の火事で、2階で寝ていた友達とそのお母さんだけが亡くなりました。他の家族も重傷を負い、酷い火事だったと聞きます。当時は仲の良かった子が突然いなくなることを受け入れきれなくて、私は情緒不安定になっていたと思います。あまり覚えていませんが、唐突に泣きだしたと思ってあやしたら、怒って暴れ出し、しばらくするとぼーっと部屋の隅で座り込んでいたそうです。でもすぐに普段通り外に遊びに行ったりするようになったから、両親は安心していたそうです。でも、そうでもなかったみたいで。

 私はその友達を探しに行ってたんですよね。その子が死んじゃったことは、わかってたんですよ。でも「それはそれ、これはこれ」みたいなかんじで、「とりあえず会って遊ぼう」と考えていたのは覚えています。今自分で言ってても意味わかんないですが。当然その子のマンションも何回もいきました。居住者がいないのに何度もベルを鳴らして隣の人に変な目で見られていました。でもある日、ベルを鳴らしたら友達のお母さんが出てきたんです。「あら、久しぶりね。ちょうどおやつを作っていたのよ」って感じで自然と招き入れられました。部屋に入ると友達がホットケーキにチョコペンでお絵かきしていました。「一緒にやろう!」って誘ってくれて、私は友達と楽しくホットケーキにウサギやクマやお花を描いて遊びました。そしていざ、食べようとなった時、突然お腹が痛くなってきました。「ごめん、お腹痛い。トイレ貸して」とトイレに駆け込みましたが、トイレに入った瞬間なんにも痛くなくなったんです。おかしいなぁとトイレを出ると、またおなかに違和感を覚えて、「今日は帰るね」と友達に言いました。そしたらその子のお母さんが突然怒りだして、食べるまで帰さないって玄関で仁王立ちしだしたんです。怒っているところなんて始めてみたから、私、思わず泣いちゃって。友達まで泣きそうな顔で私を見ていて。友達は「帰りたいよね」って私に言いました。頷くとその子はベランダを指さしたんです。何故かその時その子が言いたいことをすべて理解したような気がして、私はベランダのガラス戸に突進しました。その後のことは母からきいたんですけどね、その部屋のお隣さんが、ガラスが割れる音を聞いて隣のベランダからのぞき込んだらしいんです。そうしたら血だらけの私が倒れていて、救急車呼んでくれたそうです。ただ、何故かどこのガラスも割れてなかったって。もちろん、もうあの友達を探すようなことはしていませんよ。 

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