№67

 僕は見えるんです。幽霊が。

――名井さんはある日男の子の幽霊を見たらしい。

 ニコニコ笑っていました。小学1年生くらいでしょうか。短パンと白い半そでのシャツ、長い前髪、えっと、後はふっくらしたほっぺた。そう、全然怖くないんです。でもそれを始めてみたのは今年の初めで、冬でした。友人と初詣のとき、参道を歩いていて、ふと後ろを見ると10メートルほど離れたところにそれはいました。不自然にそれの周りに人がいなくてすぐに目に入りました。見ちゃいけないと思いました。その時目が合ったかどうかは、前髪のせいでわかりませんでしたが、こっちを見ていたのは確かです。僕は友人には告げず、足早にその場を去るように促しました。

 次にそいつを見たのが、1か月後くらい、同じ友人と全然違う場所で、一緒に飯でも食おうと大通りの歩道を歩いているときでした。なんとなく来た道を振り返るとそいつがいました。前と同じ格好で、笑っています。これは友人に憑りついてるんじゃないかと思い、初詣の時とその時見えている物を教えました。友人は見えない方の人で、まったくその子供に覚えはないが、見えない子供が追いかけてくるのは面白いな、と何故か笑っていました。

 それから2,3か月後、あった友人の傍らにはそいつがいました。なんでこんなに近くにいるんだと思わず叫びました。友人は笑いながら、そうか近くまで来たかと言いました。相変わらず見えてないようです。友人は、これはたぶん幼いころに死んだ兄だ、と言いました。友人の兄は、彼らの母親が友人の世話にかかりきりになっているときに、不注意で道路に飛び出して車に轢かれて亡くなったそうだ。兄が傍にいると知れて良かった、ありがとうと友人は言いました。そしてそれが友人と会った最後になりました。先日友人は亡くなりました。一人暮らしのアパートで衰弱死していました。彼は貧乏というわけではなく、ちゃんと仕事にも行って、冷蔵庫にも食べ物がきちんと入っていたそうです。それなのに、週明けに出勤しない友人を心配して訪ねてきた上司が、げっそりとした友人を見つけて救急車を呼びましたが、すでに亡くなっていたそうです。

 やはり、生きている人と死んでいる人は一緒に居てはいけないんでしょうね。特に家族何て血のつながりのあった者同士は……。

 あ、もしかして見えてます? そうあの二人、あれから僕の後ろにいるんです。仲良いですよね。

――私には確かに名井さんと同じ年くらいの男と、ニコニコと笑う少年が見えていた。しかし男の顔は少年と違って青白く落ちくぼんだ眼からは涙を流して名井さんを見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る